武田薬品が5年ぶりのR&D説明会で披露した「甘い皮算用」Photo:123RF
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 2025年の幕が明けた。今の世の中が、理性や知性をもっとリスペクトする世界線であったならば、ドナルド・トランプなる俗物が米大統領に返り咲くことはなかったであろうし、「あの人」も遅ればせながら、後身に道を譲る日が訪れていたはずであったのに、と夢想する。

 ところが現実は、自らの欲望を隠さないばかりか、瑕疵を指摘されても逆に「聞く耳を持たず」とばかりに開き直ることがリーダシップなのだと履き違える輩が、大衆に受ける末世となってしまった。なぜ再当選できたのかがさっぱりわからない兵庫県知事あたりは、直近の代表例だろう。ルネ・デカルトが拓き、ジャン=ジャック・ルソーが育てた「知」の伽藍は暴力性を帯びた「痴」の嵐を前に、土台から崩れ落ちようとしている。

 そこで、改めて「あの人」こと武田薬品のクリストフ・ウェバー社長を語りたい。彼は14年に同社初の外国人COOに就き、翌15年にCEOへと昇格した。自身を武田に招いた長谷川閑史前CEOが会長として睨みを利かせていた17年までは「大人しくしていた」(業界筋)が、目の上のたんこぶがいなくなると、日本人に深く刻まれた白人コンプレックスを上手く使いながら権勢をふるい始めた。

 そのシンボル的行為が翌18年の、6.8兆円を投じたアイルランド製薬大手シャイアーの買収であったことは言を俟たない。ただし、ここまでの振る舞いであればギリギリ許せる範囲である。逆説的になるが仮に日本人のサラリーマン経営者であったならば、ここまでの投資リスクを前に話が持ち込まれても躊躇しただろうし、そもそも買収話のオファーすらもたらされなかったと思われるからだ。

 問題の所在は、ウェバー社長が乾坤一擲のM&Aを行ったことではない。PMI(経営統合プロセス)を含めた買収後の武田のあるべき姿を具体的に、細部にわたり、皆が腑に落ちるかたちで最高経営責任者が示せなかった点にある。残念なことに、国論を二分するいわゆる「103万円問題」がしっぽを巻いて逃げ出すほどの超高額報酬をもらっておきながら、それに見合うだけの働きを示さなかった。ここから武田の非可逆的な凋落と低迷が始まった。