高額報酬に見合う働きをしているとは言い難い、武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長(最高経営責任者)。しかし当初の“公約”でああった任期10年を超えて在任する可能性が高まっているという。連載『武田薬品 「破壊と創造」最終章』の本稿では、武田薬品の次期トップレースの最新事情に迫る。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
ウェバー社長が“一軍”に位置付けた
新薬候補群の半数が開発中止に
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長CEO(最高経営責任者)が就任後の10年間で受け取った役員報酬額は総額約150億円。ではその分の働きをしたのか。答えはノーと言わざるを得ない。
ウェバー氏自ら“ビッグウェーブ”と称し、上市に大きな自信を見せていた選りすぐりの新薬候補群がなかなか結実せず、次世代の屋台骨が未だ見えないからだ。
下表は、2020年のR&D(研究開発)説明会で、24年までに承認を目指すとしていた「ウェーブ1」の新薬候補群の開発状況だ。
新薬開発に失敗はつきものとは言え、いわば“一軍”に位置付けた品目群で開発中止が半数近くとはいささか多すぎる感がある。そのため、目標に掲げていた数字もついてこない(下表参照)。
市場の評価も低下の一途で、今や時価総額で中外製薬、第一三共の後塵を拝する。危機感の表れか、24年3月期には15年ぶりの増配に踏み切ったが、新薬開発状況の貧弱さは投資家に見抜かれ、今年度はPBR(株価純資産倍率)も1倍未満で推移している。
とうとう今年5月の株主総会前には、米国の議決権行使助言会社大手から、社長再任と賞与の承認に反対するよう推奨が出た。しかし、である。ウェバー氏は、かねて自身の任期を10年と公言していたが、「25年以降も社長続行」説が濃厚だとする見方が強まっている。
米国企業からも経営手腕に疑問符が付いたウェバー氏が、武田の実績を引っ提げて、メガファーマのトップに転身できる可能性は限りなく低い。ならば「高額報酬にありつける武田薬品にできるだけ長くしがみつくのでは」(武田薬品OB)というのである。
ポスト・ウェバー争いの行方も混沌としてきた。ここにきて、新たな候補の存在が武田薬品関係者の間でささやかれ始めている。
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