本書は、我々がお金に対して抱いている誤解を解くところから始まる。お金にまつわる過大評価や幻想をいとも鮮やかに振り払うのだ。

 物語は主人公である優斗が、「ボス」からお金に関する講義を受けることで進んでいく。経済や金融の前提知識は必要ない。中学生の優斗と同じ目線で、身近でわかりやすい例を通してお金への理解を深めることができる。

 紙幣は5年も使うとボロボロになり、毎年30兆円分も燃やされているという。

 本当に紙幣そのものに価値があるのなら、古い紙幣をそのように扱う理由はないはずだ。

 また、このような話もある。1つのドーナツと100万円の札束、問題を解決できるのはどちらか。思わず100万円と言いそうになるが、軟禁状態で空腹を抱えているとしたら、明らかにその問題を解決するのはドーナツのほうだ。それに、誰もいない無人島に行く場合も札束にはなんの力もない。

「お金自体には価値がない」

 そう言われてもすぐには納得できず、異を唱える人が多いはずだ。詭弁だ。きれいごとだ。現実を見ろ。そんな言葉が脳裏を掠めるのも無理はない。しかし、本書を読み終わったらきっとこう思うはずだ。

「たしかに、お金に価値はない」

 それほど本書は華麗に新たな視点をもたらしてくれる。お金は大事だ、お金がたくさん欲しいと思っている人にほど、本書をおすすめしたい。

一読のすすめ

 優斗がお金について理解を深める一方で、物語も進んでいく。優斗の進路、七海が屋敷に来た理由、ボスの正体など、物語にも気になる点はたくさんある。会話にちりばめられた伏線が終盤に回収されていくさまを見るのも本書を読む際の楽しみの1つだ。お金について深く知ったとき、物語の核心にも触れることになるだろう。

 本書の後半では皆で共有する未来をどう描くかに焦点が当てられる。本書を通読して物語の行方を見守りながら、未来を共有する意味について考えてみてもらいたい。

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