健康経営に不可欠な「仕事の健康」
「健康経営の基盤は当然、社員の体と心の健康維持・増進に向けた支援ですが、それだけでは十分ではありません。困難な時期を乗り越えた私自身の経験から『仕事の健康』も健康経営の重要な要素だと気付きました」(中嶋社長)
これは、仕事にも「寿命」があり、健康管理が必要だという考え方だ。
「例えば、ある時代に旬だった仕事(商品やサービス)が、今でも需要があるとは限りません。時代に取り残された仕事にしがみついたところで社員も会社も疲弊し、財務状況も悪化するばかりでしょう」(中嶋社長)
営利企業である以上、負担に見合う利潤がなければ仕事への情熱や活気は維持できない。職場も健康や絆を追求するどころか、疾病リスクの高いストレスフルな場と化してしまう。中嶋社長は資本が潤沢にあるわけではない中小企業だからこそ、経営陣や上司が冷静に仕事の寿命を見極めながら仕事の健康を管理して初めて、社員一人一人の健康を守ることができると指摘する。
「職場の健康管理」もまた健康経営の重要な要素だ。同社では、毎年10月にインフルエンザワクチン集団接種(2回接種)を行っているが、これは二十数年前に配電盤の設計者が次々とインフルエンザに罹患し、工程に支障が出るケースが続発したことがきっかけだった。個々に接種を促してもらちが明かないため、急きょ職場に接種会場を設営して集団接種を行った結果、職場での集団免疫(間接予防効果)が成立し、それ以上の感染拡大と納期遅れを免れた。

「これで味を占めました」と中嶋社長は笑う。始まりこそ納期遅れを防ぎたい一心だったが、今では社員の疾病予防とパフォーマンスを維持する目的でパートタイムや派遣社員を含めた全社員に対し、インフルエンザワクチン接種を提供する。過去には風疹や帯状疱疹のワクチンについても社費で接種を行っている。
ライフステージで健康管理の視点も変化
心筋梗塞や脳卒中など、突然死や寝たきりの要因になりかねない動脈硬化性疾患の予防対策も怠りない。同社では経験知と技術力のあるシニア層を専門職として積極的に採用しており、ある面で疾病リスクの高い層が業務のコアを担っている。
このため早期発見・早期治療の基本となる集団健診ではライフステージに応じた豊富なオプションを用意した。メタボが気になる40代以上は無料で半日人間ドックが受けられるほか、AYA世代(40代以前の若年層)で好発する女性がんへの意識も高い。30代の女性社員は「同世代の友人に健診内容を教えると、一様にうらやましがられます」と話す。
疾病予防に必須の食事の改善や運動支援では、昼食の野菜不足を補うために会員制でサラダや野菜ジュースを提供する「ヘルシーメイト」と、「ウオーキング・イベント」が好評だ。後者はスマートフォン用のウオーキングアプリを活用した試みで、メンバー同士のチャットや記録用のアプリ利用料は会社持ちということもあって、全国の多くの社員が拠点をまたいだチームに分かれて競った。
事務局が制作した順位発表の動画を配信するなど、なかなかの盛り上がりを見せている。「インセンティブ付きの禁煙支援やチームで減量を競うダイエット・プログラムは単発に終わりましたが、ヘルシーメイトは10年以上続き、ウオーキング・イベントも3年目を過ぎて好評です」(中嶋社長)。