絆経営で顔が見える関係をつくる
社員・仕事・職場の健康管理に加えて、健康経営のもう一つの柱は人と人との「絆」を大切にする「絆経営」だ。職場の健康リスクは人間関係のストレスに由来するものが多く、絆づくりは職場の活性化とともに健康支援の要でもある。
職場単位での交流はもちろん、半期ごとに開かれるAnnual Staff MeetingとCulture Meetingでは、各支店・営業所と工場部門を含めた全社員が一堂に会し、全社的な方針と各部門からの年次報告に耳を傾ける。普段は接点がない他部門の動きを知り、所属部門と比較することで自身の仕事への理解度を深めると同時に、他部門との交流を通じて全社的な仲間意識を育てる場として機能しているという。
同社名物の「屋上バーベキュー大会」もまた、全国の社員が本社に集結する全社イベントだ。企画段階から組織横断的に「肉焼き班」「ドリンク班」などを編成し、互いに「もてなし」「もてなされる」うちにいつの間にか他部門に顔見知りができる仕組みだ。

「例えば商社部門の社員と工場部門の社員が『顔の見える関係』になることで、困ったときに相談できたり、新たな可能性や仕事のやりがいを生み出すきっかけになったりもします。一朝一夕にはいきませんが、コミュニケーションを通じて絆を育む仕掛けは常に意識しています」と中嶋社長は説明する。
強靱な絆を紡ぐ「弱さの共有」の試み
今後の課題を尋ねると「弱さの共有」というキーワードが返ってきた。「弱さの共有」とは近年注目されている組織論で、互いに自分が抱えている悩みや事情などの「弱さ」を開示することで、相互の信頼と助け合おうとする意識が生まれ、柔軟に補完し合う強靱な組織が育つというものだ。
「これからは出産や育児、介護といったさまざまな事情を背景に、多様な働き方が当たり前になってきます。過渡期には終業ベルと同時に帰宅する同僚に釈然としない人も出てくるでしょう。人間関係がギクシャクする可能性もあり、ひいては心の健康を損ねかねません。しかし、ケアを必要とする家族がいるなどの事情を分かっていれば、『お互いさま』という気持ちで仕事をカバーし合えるはずです。そういった事情は誰にでも起こり得ることですから」と中嶋社長は言う。
ただ、職場の中で弱みを見せることへの抵抗感はまだまだ強く、今のところは上司との対話でお互いの弱みを開示しながらサポートし合う関係をつくる「2 Way Communication Sheet」を活用した1on1ミーティングの実施にとどまっている。
「弱さの共有は絆経営の根幹だと考えていますが、まずは『何を言っても大丈夫だ』『批判されることはない』という心理的安全性を高め、互いの対話を促進することが今の大きな課題です」(中嶋社長)
少子高齢化で労働力が不足する今、介護と仕事の両立などさまざまな事情を抱える社員をいかにサポートしていくかは、全ての企業が直面している喫緊の課題だ。簡単に人員を補充できない中小企業であればなおさらだろう。
「会社とは社員一人一人が仲間と共に『健康』『絆』『幸福』を追求し、全社員が人生の成功者を目指す場である」という同社の理念は一見、きれい事のように思える。しかし「健康は全てではないが、健康を失うと全てを失う」という先代社長の教えが示すように、健康経営の実践こそ、激変する時代を生き抜く現実的な戦略なのだ。