元テレビ朝日法務部長で弁護士の西脇亨輔さん フジテレビ問題をわかりやすく解説してくれた元テレビ朝日法務部長で弁護士の西脇亨輔さん Photo by Motoyuki Ishibashi

「週刊誌報道で自社のトラブルを知った」――フジテレビ副会長のこの発言に、驚きを覚えた人も多いのではないでしょうか。本来ならば、コンプライアンスに関わる重大な問題は、専門の部署を通じて適切に対処されるはず。しかし、今回のケースでは、その基本ルールが完全に無視されていました。なぜ、こうした“ガバナンス不全”が頻発するのでしょうか。元テレビ朝日法務部長で弁護士として活躍する西脇亨輔さんはフジテレビのガバナンス不全に「驚きはない」と言います。テレビ局が“ガバナンス不全”になりやすい理由について、元テレビ局員としての知見を踏まえながら解説してもらいました。(構成/ダイヤモンド・ライフ編集部)

「コンプラ部門に報告なし」
フジの対応が完全アウトのワケ

 本来は、コンプライアンスに関する重大な問題が発生したら、すぐにコンプライアンスを担当する部門に通報が届くのがあるべき姿です。今回のフジテレビのように、会社の上層部が最初に知った場合も同様です。

 しかし、中居氏をめぐるフジテレビのトラブルが社内のコンプライアンス担当部署と一切共有されていなかったことが、報道で明らかになっています。1月27日の「10時間会見」にも参加していたフジテレビ副会長の遠藤龍之介さんは、中居氏をめぐる自社のトラブルについて「自宅に週刊文春が来て知った」という趣旨の発言をしました(1月23日 ANNnewsCH)。さらに、フジテレビ幹部はコンプライアンス部門にトラブルを報告しなかったことを「10時間会見」で明らかにしました。(1月27日 日本経済新聞

 コンプライアンスに関わる部署はコンプライアンス「推進室」「統括室」などと呼ばれ、会社の組織図上、社長直轄となっていることが通常です。フジテレビも取締役会や会長、社長の下に報道局、スポーツ局、制作局といった現場の局が設置されているのと並んで、すべての局から独立し、特定の局に属することがない形でコンプライアンス推進室が設置されていました。

 例えば、編成局の下にコンプライアンス推進室があった場合、編成局の力を持つ人がセクハラをしても、上司のコンプライアンスを問うことになるので、忖度が生まれる可能性があります。今回の問題に関して言えば、中居正広さんという制作スタッフにとって重要な人物への特殊な配慮が発生してしまう恐れがあります。

 2月1日に元フジテレビアナウンサーの長谷川豊と堀江貴文さんの対談動画が公開され、「アナウンス室の独立性」がテーマの1つとなっていました。番組編成・制作の担当局の下にアナウンス室がある場合、アナウンス室長は番組編成・制作担当局長の「部下」ということになる。そうするとアナウンス室全体が、番組作り優先の部局の言うことに逆らいにくい土壌が生まれる恐れがあると思います。

 番組制作や会社利益に直接関係してる部署が担当すると、「中居さんのほうが女性よりも利益を上げてくれる」といった理由で中居さんに利する判断に偏りかねません。むしろ、現場がそうした偏った判断をした際に、正常な状態に引き戻すことがコンプラの重要な役割でもあります。会社の利益より法令遵守を優先するならば、今回の事件もコンプライアンスを担当する部署に報告していたはずです。

 しかし、結果はそうなっていないことから、フジテレビがコンプライアンスより会社の利益を優先したと批判されても仕方がないのです。

「コンプラ違反隠し」が起こりやすい
テレビ業界の“特性”

 今回のフジテレビの問題は、べき論や筋論で言えば、当然コンプラに入れるべきでした。同時に、私もかつてテレビ朝日で法務部長として危機管理部門で働いた経験から、フジテレビの幹部がコンプライアンス推進室に情報を入れなかったことに驚きはありません。「そうなるだろうな」と思ってしまう。なぜテレビ局では、こうした「ガバナンス不全」が起こりやすいのでしょうか。