![萩本欽一](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/d/c/650/img_dc6a7992a9a0c850822aa50d97774bbc475600.jpg)
コメディアンとしてだけでなく、「イモ欽トリオ」「CHA-CHA」などのアイドルプロデュースでも驚異的な手腕を発揮していた萩本欽一。CHA-CHAの前身となる「茶々隊」には、元SMAP・木村拓哉、草彅剛も加わっていた。後に『仮装大賞』では香取慎吾とダブル司会を務めるなど、欽ちゃんとSMAPの深い関係を紐解いていく。※本稿は、太田省一『萩本欽一 昭和をつくった男』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
萩本流・コメディアンに向いている人
向かない人の見分け方
萩本欽一はどのように人材を発掘し、鍛えてきたのだろうか。
小堺一機が萩本の物まねをするときの定番のセリフに、「聞いたらおしまい」というものがある。実際によく萩本が言うらしい。どういう意味か。
たとえば、オーディションの面接で萩本が「あなたのお母さんは?」と尋ねる。どのようにも取れそうだが、それもそのはず、あえて漠然とした質問をしているのである。するとたいていの人間は、「あの、母の何についてですか?」などと逆に質問を返してしまう(萩本欽一『「笑」ほど素敵な商売はない』福武書店、1993年、15頁)。
萩本に言わせると、逆に質問するのは補足の説明を求めているからだ。つまり、質問の意図をすべて明確にしてからでないと答えられないと考えるから質問を返す。
そういう人間はコメディアンに向かない、と萩本は言う。そうしてしまうと遊びの余地がなくなり、笑いは生まれないからである。曖昧な質問をそのまま受け止め、なんでもいいから「先走りした答え」を返す少しおっちょこちょいなくらいの人間こそが、コメディアン向きなのだ(同書、17頁)。その意味で、「聞いたらおしまい」なのである。
混乱の中を上手に
泳げるのが「よいボケ役」
「あなたのお母さんは?」と問われれば、聞き返さずすぐに「はい、口やかましくて、お節介で、ウンザリするんですが、失恋してションボリしているときに一緒に泣いてくれるような母です」などと思いつくままに答えればよい。もちろん正解はない。そして重要なのは、その後だ。
萩本は、そこで終わりにしない。「そんなこと聞いてないの、お母さんの年齢!」とさらに聞く。それでも返しかたは同じ。「56、いや57かな。あれ、たぶん、8まではいってません」「結局、いくつなの?」「この際、55ってことで、ひとつよろしく。その方が母も喜びますから」「余計なこと言わなくていいの、年齢を聞いただけなんだから」(同書、16頁)。