萩本欽一は、このようなやり取りこそがボケとツッコミの原型だと言う。答えはなんでもいい。もし質問に「55歳です」などとスパッと答えてしまったら、「年齢ではなく、名前を聞いてるの!」などと萩本が切り返す。つまり、ツッコミである。こうして次々に半ば強引に質問の方向を変えて、相手を混乱に陥れる。だがそこで答えに窮してしまわず、その混乱のなかを上手に泳いでいくのがよいボケ役なのだ(同書、17頁)。
そう。お気づきのように、コント55号の二郎さんとのやりとりがまさにこれだった。萩本は、二郎さんほどの経験やテクニックはなくとも自然にボケとツッコミの流れに持っていける資質があるかどうかをオーディションで見定めていたのである。
「この子は将来絶対スターになる」
欽ちゃんが感心した木村拓哉の回答
厳密には「欽ちゃんファミリー」かどうかはわからないが、この萩本流面接で“合格”したのが元SMAPの木村拓哉である。
SMAPとしてCDデビューする前、まだ十代だった木村が欽ちゃんの番組のオーディションを受けたことがあった。このとき萩本がした質問は、「好きな食べ物は何?」というもの。これもどのようにでも答えられそうな曖昧な質問である。すると木村は、「お母さんがつくったおいなりさん」と答えた(『Techinsight』2012年1月15日付記事)。
萩本は、この答えにいたく感心した。まだ若いのに格好をつけて「パスタ」などと言わず「おいなりさん」と答えたところ、さらに「お母さんがつくった」と付け加えたところがなんとも良い。確かに、この答えには「それはどんなおいなりさん?」とか「なんでお母さんがつくったのでないとダメなの?」とかすぐいろいろツッコミたくなる。
「この子は将来絶対スターになる」と、このとき萩本は確信したという。当然オーディションは合格した。しかしこれには後日談もあって、木村拓哉は「おいなりくん」と萩本に呼ばれる意味がわからずレッスンにいかなくなり、結局番組には出演しなかった(同記事)。