こうした事態を都市政策の観点から見ると、2030年、2040年、2050年……と今後、時代が経過すればするほど、大都市の住宅実需層のニーズに合わない築年数が古いマンションの在庫がどんどん積み上がっていくことが予想されるのです。

 これは、買い手の付かない空き部屋を大量に抱えたマンションが、老朽化したまま地域にずっと残り続けることを意味します。

低コストで優良物件を
建てる方法はもはやない?

 日本では明治維新以降、鉄道会社による沿線開発、関東大震災・戦災からの復興やその被災者の郊外移住のための宅地開発、そして高度経済成長期の郊外ニュータウン開発、産業構造の変化に伴って創出された工場跡地・鉄道ヤード跡地・埋め立て地などでの大規模開発……と全国各地で都市化が進行してきました。

 その結果、特に大都市は「すでに都市化しきった」状況となったため、もはや新たに開発できる土地=開発余地が少なくなってしまった状態なのです。

 それであるなら、増え続ける空き家を活用すればよいのですが、これまでの状況を見る限り、所有者が空き家のまま長期間置いておくケースが多いのです。

 つまり、不動産市場になかなか流通しない、いわば「空き家という在庫は多いのに店頭に並ばない」状況となっているのです。

書影『2030-2040年 日本の土地と住宅』(中央公論新社)『2030-2040年 日本の土地と住宅』(中央公論新社)
野澤千絵 著

 前述のとおり、中古マンションの在庫が増えているので、そこを時代のニーズに合わせて建物全体を大胆にリノベーションしたり、建て替えたりできればよいのですが、区分所有者同士の合意形成という高いハードルがあるため、実現に向かうケースは非常に少ないのが現状です。

 また、こうした古い建物や土地をまとめて再開発をするという選択肢もあります。しかし、前述のとおり、再開発という仕組みは高コスト構造で、かつ建設費もまだまだ上昇することが見込まれます。

 ですので、ニーズの高いところで再開発しても、高額物件が生み出されるだけで、一般世帯が手を出せる住宅が増えるとは思えません。

 このように、都市化しきったことによる開発余地の乏しさも、住宅の入手困難化や高コスト化を助長しているのです。