この事例は、分割前は60.3平方メートルだった土地を29.5平方メートルと30.8平方メートルに2分割。いずれも3階建ての2LDK+サービスルームで、A区画は延べ面積64.8平方メートル・4080万円、B区画は延べ面積65.9平方メートル・4380万円で販売されていました。

書影『2030-2040年 日本の土地と住宅』(中央公論新社)『2030-2040年 日本の土地と住宅』(中央公論新社)
野澤千絵 著

 これらの事例のように、どの街でも土地を究極ともいえる30~35平方メートル前後にまで細分化して新築住宅を建てることができると思われるかもしれませんが、実は自治体の都市計画で土地の細分化を防止する規制を導入しているところも多いのです。

 例えば、荒川区、足立区、世田谷区、杉並区では、土地を過度に細分化して、極狭小な建物を建てることができないよう、各区が建築基準法に基づく条例を制定し、最低敷地規模を60~80平方メートル程度(各区や地区で規模は異なる)と規定しています。

 しかし、大田区や墨田区では、地区計画という地区独自のルールを規定している区域(田園調布など)を除き、全域で最低敷地規模が定められていません。

 そのため、地価や建設費の高騰を背景に、土地はますます細分化され、将来、使いにくい土地や建物が生み出されることに歯止めをかけられていないのです。

 個々の住宅は新築の場合、最低限の建築基準は満たしていても、狭小な住宅が密集すると、日照・通風といった居住環境だけでなく、火災時の延焼や避難、街並みへの影響が懸念されます。また、2050年には単身高齢世帯が今の1.5倍になる社会が到来する中で、バリアフリーでない住宅を増やすことにつながります。

 確かに、地価や建設費が上昇する中で、事業者によって極狭小の建売住宅の開発が増えているわけですが、都市政策や住宅政策の観点からは、まち全体の住環境の保全や、将来も活用できるような良好な住宅ストックを増やすことも同時に考える必要があるのです。