孤独でしんどい状態だと
依存症になりやすい
次に檻のネズミのうち、1匹を楽園のネズミたちの中に移してみる。
最初は片隅でモルヒネ水を飲んでいるが、そのうちに他の仲間に受け入れられ、輪の中に加わり、ふつうの水を飲みはじめる。しばらくすると、どれがモルヒネ中毒のネズミかわからなくなっていった。
この実験から、コミュニケーションの輪から外れ、孤独でしんどい状態に置かれると、依存症になりやすいことが見えてくる。
またこの実験は依存症からの回復のヒントを与えてくれる。
それは、孤独にさせてはいけない、みんなで包摂することが大切だということだ。
松本医師は言う。「戦前、アルコール依存症といえば人格破綻者で、『治らない、治療お断り』の状態でした。戦後、AA(アルコホーリクス・アノニマス)(編集部注:飲酒問題があり、飲酒のとらわれから解放されたいと願う人たちの集まり)や断酒会やお互いに支え合う自助グループが普及し、アルコール依存症の克服が現実化した。自助グループには社会的に発言する人も多く、アルコール依存症への偏見も、徐々に払拭の方向に動きました」
松本俊彦医師は、そもそも依存症という言葉が好きではないと話を続ける。
「『自己責任だ』『自立しろ』とか、依存がいけないかのような言葉を、近年よく耳にしますが、そもそも人は、何かに依存して生きています。
例えば仕事のあとの1杯のビール。コーヒーやタバコで一服して気持ちを切り替える。友人や家族や恋人との会話を楽しみ、ときには愚痴を聞いてもらいストレスを軽減したり。自立している人は、いろんな依存先があるものです。
治療を必要とする依存症者は、人に愚痴ったりボヤいたり助けを求めたりせずに、化学物質だけで自分を支えようとする人たちです。依存症とは、『安心して人に依存できない病気』と言えるかもしれません」
薬物依存の本質は
「内に秘めた苦痛の緩和」
覚せい剤に関して厳罰主義の日本では、1回でもやればその目くるめく快感のために中毒になってしまう恐ろしい薬物。
「ダメ。ゼッタイ。」「覚せい剤やめますか? それとも人間やめますか?」等々、覚せい剤追放キャンペーンの標語が繰り返し喧伝され、人々の頭に焼き付いている。だが……。松本医師は言う。