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依存症は、患者本人の「自己責任」なのだろうか?松本俊彦医師曰く、人が依存症に陥る根底には、社会的なコミュニケーションから弾かれた「孤独」や子供の頃に経験した「心的外傷」が存在する。依存症者を孤立させない、自助グループにつなげることができる社会環境作りが、今求められている。※本稿は、根岸康雄『だから、お酒をやめました。「死に至る病」5つの家族の物語』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。
他者への暴力を働く薬物で
断トツに危ないアルコール
依存症とは何か。その正体について、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師にレクチャーをお願いした。松本医師は日本で数少ない、依存症の治療を担うドクターである。
覚せい剤等の薬物の依存症が専門だが、アルコールもエタノールという薬物である。
松本俊彦医師は言う。「統計上、他者に対する暴力や迷惑行為を働く薬物として、断トツに危ないのはアルコールです。脳の萎縮や臓器障害も、アルコールが最も深刻に影響が出ます。大麻とアルコールを比較すると、身体にはアルコールのほうが悪いと思うのですが」
お酒はコンビニでいつでも手に入るが、大麻の所持・使用に関しては、大麻取締法違反での厳罰は周知の事実だ。
松本医師は言う。「アルコールは大多数の国民に好まれています。アルコールを禁止すると、大衆の不平不満が渦巻く。だからお酒に対しては寛容なんです。つまり薬物の合法非合法について、医学にもとづいた合理的な区別はないのです」
松本医師は依存症の説明をするとき、欧米の実験心理学の研究者が行なった実験の結果を例に挙げる。それはこんな実験である。
32匹のネズミをランダムに2グループに分ける。一方のグループの16匹は1匹ずつ牢獄のような檻に閉じ込める。他方の16匹はまとめて広い場所に集め、おもちゃを与え、コミュニケーションや交尾もし放題、ネズミたちの楽園を形成する。
最初の4日間は両方のグループとも依存性の強いモルヒネ水を与え、5日目からはモルヒネ水と水を与える。さて、モルヒネ水の消費量が多いのはどちらのグループか。
断トツで檻に閉じ込められたネズミだった。
楽園のネズミはほぼ全部がふつうの水を選んだ。楽園のネズミはモルヒネ水の快楽より、仲間とのコミュニケーションが楽しかったのだろう。