薬物を使ったまま、こどもの運動会に出た…当事者が語る「子育て」と「薬物依存からの回復」の両立が困難なワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

薬物・アルコール依存の過去を持つ上岡陽江さんが創設した、さまざまな依存症に苦しむ女性のための回復支援施設「ダルク女性ハウス」。ここには、薬物依存からの回復に努めながら、母としてこどもと向き合おうとする女性も集っている。彼女たちが過ごしてきた過酷な日々を、『増補新版 生きのびるための犯罪(みち)』(上岡陽江、新曜社)より一部を抜粋・編集してお送りする。※内容は2012年時のもの。

薬物を使ったまま
こどもの運動会に出た人も

 さて、こちら「ダルク女性ハウス(以下、ハウス)」の通所スペース(ほかに、生活をともにする入寮スペースもあるの)は、20畳ほどの大きさ。もちろん、キッチン、トイレ、風呂つきよ。建物は新しくないけれど、意外とゴージャス……?

 月に1度、ここは、こどもたちのはしゃぎ声やお母さんたちの笑い声でいっぱいになるんだ。みんなでいろいろな雑談をしたり、うどんを打ったり、絵本を読み合ったり。

 ハウスに通う仲間とそのこどもたちが集まる、この「母子プログラム」は、薬物依存から回復したあるメンバーと、元中学校の先生が中心となって、2004年から行われているの。みんなでディズニーランドとか、夏にはプールとかに遊びに行くこともあるんだよ。

 中心メンバーのみどりは、2人のこどもが小学校に入るころにダルクにやってきて、10年使ってきた覚せい剤を1度、やめた。でも、1年ほどでまた使ってしまって、それ以来、しばらくのあいだ、ハウスに通えなくなってしまったの。

 通わないでいるあいだ、薬物を使ったまま、こどもの運動会に出たこともあるんだよ、って、あとになって聞いた。

「誰も見ていないのに、刺さるような視線を感じたり、毎日、妄想がすごかったの」。

 このままではまずい、と、ひとりで覚せい剤を絶とうと決意して部屋にこもり、こどものごはんも作れない毎日が続いたという。けっきょく、「やっぱり助けを求めるしかない」。そして、ダルクにまた毎日通いはじめたというわけ。それからしばらくして彼女たちがはじめたのが、この「母子プログラム」だったんだ。

 依存症からの回復と子育てとの両立は、とてもきついの。だからこどもを交えて、同じ時間と空間を、仲間と共有する。そうすると、自然と安心感が生まれてきて、少しだけ気持ちが落ち着くことがあるんだ。

 みどりが最初に自分のこどもをここに連れてきたとき、わが子に向き合って、こう言ったんだよね。

「お母さんはここで毎日、勉強してるんだよ」。