そして1番の特徴は“安心して覚せい剤を使いながら、更生できるプログラム”であるという点だ。

 松本医師は言う。「これまでの『やめなければダメだ』というプログラムでは、患者が医療機関に来なくなってしまう。依存症の患者に共通して言えるのは、『やめろ』と言って、やめる人はいないという現実です。

 薬物の依存症は治療を長く続けた人ほど、成績が上がるという研究結果が得られています。薬物依存症の治療は継続がすべてです。薬をやりながらでも、諦めずプログラムに通い続ける。それによって薬を断っていく」

依存症の反対語はつながり
孤立させない環境が大切

 近年、「依存症」という言葉が流行語のように氾濫しているが、松本俊彦医師は言う。

「『依存症』という言葉には、人の行動を監視し、コントロールしたい思惑が隠れている気がします。子どもが寝食忘れて勉強していても親は騒ぎませんけど、それがゲームだったら『病気』だと決めつけたがる。

 すぐに『依存症』だと、決めつける世の中はよくないと僕は思っています。すでにお話ししましたが、人間は依存症的なものを持ちながら生きている。

 度を越した依存に対してはサポートが必要ですが、『覚せい剤を1回やったら人生終わり』『アルコール依存症者は人格破綻』という社会より、『薬物依存の人の気持ちもわかるし、回復の方法もあるんだよ』と、広く世の中に知れ渡ったほうが、よりいい社会になると僕は思いますね」

 最後に松本医師は、依存症に取り組む米国のジャーナリストの言葉を引用する。

「英語で依存症はAddiction(アディクション)、これの反対語は何でしょうか。Sober(ソバー)=シラフ、Clean(クリーン)=薬を使ってない状態、そうじゃないよね。

 Addictionの反対語はConnection(コネクション)=つながり。人とのつながりがないほど依存症になりやすいし、依存症になるとますます孤立してしまう。

 薬をやめることを強調する前に、薬物依存症者を孤立させない、自助グループにつながることができる社会的な環境作り、それが大切なんだと思います」