さらに、最上位の開発部門の中にもヒエラルキーが存在し、内燃機関によるエンジン車が主流だった時代には車体設計やエンジン設計の仕事が上位で、電子(エレクトロニクス)系の仕事は下位に位置していました。

 現在、EV(電気自動車)や自動運転技術の開発が進められ、社会的には電子系の仕事がもてはやされていますが、それはまだここ数年のこと。EV戦略に力を入れてきたはずの同社の開発部門の内部では、いまだに昔の序列で力関係が決まっています。

お互いに「自分たちのほうが上」
だと思っている

 確かに、これから主流となる自動車の電子化の分野では、各メーカーが連携しないと莫大な開発費は捻出できないでしょう。しかし、トラディショナルな価値観を持つ日産の開発部門では、「自分たちのほうがホンダを上回っている」と自負しています。もちろん、ホンダ側も「自分たちの方が上だ」という自負があるだろうし、これでは統合の折り合いをつけるのは難しいと思われました。

●カルロス・ゴーン元社長の経営手腕への評価は高くない

 カルロス・ゴーン氏は、2000年代の「日産リバイバルプラン」の頃は求心力のある経営者でしたが、後半は普通の経営者でした。ルノー開発陣も、最初は「自分たちの方が技術は優秀」と考えていたと思いますが、かなり早い段階で「日産の方が技術は進んでいる」と認識し、あとはそれをうまく利用しようというマインドで接してきたと、友人は振り返ります。

 欧州企業は過去、色々な分野におけるM&Aや合従連衡に慣れていたため、こういう「割り切り」のマインドがあったことに加えて、ルノーのトップやフランス政府には優秀な人材がそろっており、「一旦、被買収企業の自由にさせておいて、必要になったら本格的に取り込むし、ダメだったら捨てればよい」くらいに考えていたのではと思います。

 そのような中で、ゴーン氏が実態よりもスター経営者としてもてはやされてきたわけですが、彼の行動に歯止めをかけられなかったにもかかわらず、ゴーン氏逮捕後に誰もきちんと責任を取らなかったことからも、現在の業績悪化に繋がる日産の危機意識の低さが垣間見えます。

●日産社員は、「現経営陣に会社の再建は無理だ」と考えている

 友人曰く、「多くの日産現役社員が考えていることは、おそらく今の経営者(内田誠社長以下)には会社の再建は無理なので、リバイバルプラン時に助けてくれたルノーのような良いパトロンが来てくれないかということ」だそうです。

 開発部門のエリートたちは、「会社が儲からないのは経営者が悪いからで、技術は日産が競合他社より上」と考え、そのプライドを捨てられません。会社がうまくいっていないのは事務系の経営者がダメにしたのであり、「だれかホワイトナイトの資本家が来てくれて、金さえ出して口を出さなければ、自分たちだけで復活できる」と考えているようです。

 しかし、日本企業同士でかつてのルノーのような「割り切り」ができるとは思えません。いずれにせよ、こんな状況では、ホンダとの統合のハードルは超えられなかったのではないでしょうか。