こうした流れの中で、人々のライフスタイルも大きく変わってきました。昔は集団行動が主流でした。「人と一緒」が安心だったし、心地よかったのです。旅行は団体ツアーが人気で、80年代のディスコは皆同じステップで踊っていたものです。今の若者が行くクラブは、そんな雰囲気ではないですよね。

 人々の飲酒スタイルも変化し、もっと言えば娯楽の種類も増えて「お酒だけが唯一の楽しみ」という人も減っていったのです。

 90年代には日本でもインターネットが普及し、ますます「個人の時代」になってきた。自分が若い頃はリアルで人と会うことでしか、おしゃべりもできなかったし、情報も得られなかったんです。インターネットによって、1人でいても遠くの人とやりとりできて、検索で情報が得られるようになりました。これは、人の生活や考え方を大きく変えたと私は思っています。

「ちょい飲み」で人気
「日高屋」の大成功で変化した潮目

 そんな折、2002年に登場した「日高屋」は中華業態でありながら、餃子などをつまみにビールを飲む「ちょい飲み」利用ができるお店でした。1人でふらっと日高屋に入って、餃子とビールで1杯やる。そして、締めにラーメンを食べて帰る。そうした1人客のニーズに合致していたわけです。私は、ここで居酒屋業界の潮目が変わるのを感じていました。

 そしてその少し前、1990年代半ばに出てきたのが、ビールより安い発泡酒です。これによって「家飲み」や「駅飲み」をする人が増えた。コンビニで発泡酒とおつまみを買って帰れば、居酒屋に行くよりもはるかに安く、手軽にお酒が飲めるようになったのです。

 こうした変化の中、私は従来の大箱の居酒屋は消えていくのではないかと考えていました。でも、私自身は居酒屋の雰囲気が好きですし、家飲みだけというのも味気ない。居酒屋をなくしたくない、と考えていた時に出会ったのが、武蔵小山にある立ち呑み屋・晩杯屋でした。