そんな風にいかにも怪しい「依存症」ではありますが、それでもやはり病気としての依存症は存在します。
麻薬だろうと酒だろうと
依存症になる人はごく一部
ただし、それは、よくいわれているように依存性のある薬物を1回でも使用すると、脳の報酬系が薬物の快感にハイジャックされてしまう、といった類いの病気ではありません。それはさすがに薬物の効果を誇張しすぎでしょう。
国連が2016年に刊行した『世界薬物報告書』によれば、過去1年以内にヘロインやコカイン、覚醒剤の使用経験のある人のうち、依存症の診断基準に該当する人は1割強程度です。そもそも、世の大半の人が使用しているアルコールだって、実は相当に強力な依存性薬物ですが、依存症になる人はごく一部です。
断言しますが、人間はきわめて飽きっぽい動物です。どんな気持ちがよいもの、どんなおいしいもの、どんな面白いものでも、手を伸ばせばいつでも楽しめるものとなれば、ありがたみが減じ、あっという間に飽きてしまう──それが人間の性(さが)です。
誰でもよいので、一発ギャグで一気に大ブレイクしたお笑い芸人を思い起こしてみてください。あっという間にお茶の間を席巻して一世を風靡し、テレビチャンネルのどこを覗いてもその芸人が出演しているといった状況になると、余命はせいぜい3カ月です。人気はたちまち凋落し、潮が引くように人々の関心が消えていきます。芸能界にはそうした一発屋の死屍が累々と積み重なっていますよね?彼らは、私たち人間の飽きっぽさによる被害者です。
そんな人間なのに、なぜ一部の人は飽きずにある薬物をくりかえし使用し、あるいは、ギャンブルやゲームに執着し、人生のすべてを犠牲にしてしまうのでしょうか?
依存症の本質は「快感」ではなく
「苦痛の緩和」にある?
思うに、彼らをその薬物に駆り立てているのは快感ではありません。というのも、快感ならばすぐに飽きるはずだからです。おそらくそれは快感ではなく、苦痛の緩和なのではないでしょうか?
つまり、人は、かつて体験したことのない、めくるめく快感によって薬物にハマるのではなく、かねてよりずっと悩んできた苦痛が、その薬物によって一時的に消える、弱まるからハマるのです。快感ならば飽きますが、苦痛の緩和は飽きません。それどころか、自分が自分であるために手放せないものになるはずです。
ちなみに、苦痛の緩和に役立つのは、心地よい酩酊だけではありません。一般的には「苦痛」と捉えられるものですら役に立つことがあります。