日本の病院が抗生物質の投与に慎重な理由
ご存じの方も多いと思うが、日本の医療現場でもかつては大量の抗生物質投与が行われていた。しかしこれが逆に耐性菌を生んでしまったことへの反省から、今は抗生物質の投与に慎重である。さらにもっと基本的な知識として、抗生物質はインフルエンザ患者に投与しても役に立たない。
こうした事実は医療知識がなくても、きちんとした筋の情報を調べれば簡単に出てくる。筆者も念のため、本稿執筆前に複数の医療関連サイトで確認した(その一例がこちら)。一部でインフルエンザと診断された患者に抗生物質が処方されることもあるが、それはあくまでも肺炎などの誘発を防止するためのものであり、対インフルではないという。
また、採血検査についても、中国の民間医療情報サイト「丁香園」の運営に長らく関わった技術者が、やはり「大Sショック」に対して、「中国の病院では治療判断になんの役にも立たない検査をする習慣がある。インフルエンザ患者に対する採血検査などがそうだ」とはっきり指摘している。
中国では、病院側の収入増、あるいは上部機関からのノルマ達成要求を満足させるために、患者側に医療知識がないことを良いことに過剰な医療を施しているケースが多々ある。これは公然の秘密となっており、中国語のポッドキャストでも現場医師が証言している。
つまり、インフルエンザに抗生物質や血液検査を求めるのは、単なる素人の主張でしかない。医療体制への不安や不信感から、中国では患者の側が期待した治療を受けられなかったと病院で暴れたり、一方で逆に医師らに過剰な「サービス」を要求する事態も日常茶飯事となっており、これもまた中国の医療現場で大きな問題となっている。
そうした中国の医療体制が抱える問題には無自覚、無批判なまま、その医療習慣を基準にしてなんの医療知識もないまま、日本の医療体制の「不足」を批判する。社会的地位を(日本で)確立し、こうした内容を発信する発言者は、もっと慎重になるべきである。
台湾・香港でインフルエンザが流行中、しかし風邪と区別がついていない人が多い
また、「インフルエンザで!」という点は、前述のような批判者を含めて多くの中華圏の庶民が、インフルエンザと風邪の違いがわからず、単純に「人が死ぬわけがない」と認識しているせいである。
これは筆者の中国滞在時での体験から、また日本の病院に勤める台湾出身の医療通訳者に確認した上で断言していい。彼女によると、台湾でもほとんどの人たちはインフルエンザを、風邪の延長であり、生命に関わる病気だと考えていないという。
ただ、台湾の衛生福利部が旧暦正月直前に発表した「インフルエンザ速報」では、「インフルエンザで受診する人の数はここ10週間で最高になった」と報告している。2024年10月1日以降、台湾では合併症で重症に陥ったケースが525件、また107件の死亡が確認されている。
香港でも1月初めに政府衛生署が記者会見を行い、前年12月末以降、インフルエンザ患者が爆発的に増えていると報告、月末にもすでに香港だけで46人が亡くなったと発表した。
一方で、中国のメディアや政府の衛生当局のサイトを、台湾や香港の倍以上の時間をかけて調べてみたが、今季の感染者や死者数のデータ統計を見つけ出すことができなかった。こうしたことからも、中国において庶民の間のインフルエンザ(やその他疾病)に対する認知度は香港や台湾よりさらに低く抑えられていることが分かるし、その彼らが「インフルエンザで?!」とショックを受けるのは当然だろう。