中華圏で起きた「大Sショック」

 まず、旧暦正月休み明けにはインフルエンザワクチンの接種を求める人たちが病院に殺到し、ワクチン不足まで引き起こした。

 それと同時に、大Sが「あの日本でなぜ死に至ったのか?」という疑問が吹き出し、続けてそれに応えるように、主に在日中国人の間から「日本の医療制度は思っているほど優秀ではない」とか、「自分が日本で体験した医療サービスへの不満、失望」を綴るコメントや寄稿記事が日本語、中国語で出現している。しかし、近親者から治療に対する不満やコメントが出ていない状況で、まったくの外野たちによるこうした記事やコメントは、主観的な主張が目立つ。

 筆者は昨年、医療通訳者の資格を取得し、文字通り中華圏の人たちと日本の医療の橋渡しができればと考えていた。そのため、こうした無責任な「主張」は誤解を招くと感じている。ただ、日本側も海外から観光客を呼び込んでいる現状、今回の大Sの死がここまで注目されていることを認識し、さらに良好な受け入れ体制へと改善策を考えるきっかけにすべきである。

日本で暮らす外国人から見て、日本の医療の評価は高い

 一部の書き手がいうように、日本の医療が本当に遅れているのかどうかについて、ある研究者に尋ねてみたところ、日本に暮らす外国人の抱える問題についての調査では、就業や住宅面の困難に比べて医療面への評価は逆に高いという返事だった。実際、日本で治療や人間ドックを受けたいとする中国人はコロナを挟んでビザ政策が変化したことにより実際の総数は減ったものの、希望者は減っていない。

 筆者が目にした、日本医療の遅れを説く記事はその多くが(台湾人ではなく)中国出身者が執筆したもので、これまたそのほとんどが異口同音に、「中国ならば、すぐに採血検査をし、抗生物質を打つはず」で、日本ではそれをやらないと訴えている。

 筆者にはこれがひっかかった。