部下が黙ってしまったとき、ダメ上司は「間を埋めるために話してしまう」。じゃあ、感じのいい上司は?
それを語るのは、「感じのいい人」に生まれ変われるとっておきのコツを紹介する書籍『気づかいの壁』の著者・川原礼子さんです。職場で困っている人を見かけても、「おせっかいだったらどうしよう…」と躊躇したり、「たぶん大丈夫だろう…!」と自分に言い訳したり……。気づかいをするときには、つい「心の壁」が現れてしまい、なかなか一歩が踏み出せないことが、あなたにもあるのではないでしょうか? この連載では、「顧客ロイヤルティ」をベースに、ビジネスセミナーへの登壇やコミュニケーションスキルの研修講師を通して、全国200社・2万人以上のビジネスパーソンに向けて教えてきたノウハウを、さらにわかりやすくお伝えします。本稿では、本書には入りきらなかった「気づかいのコツ」について紹介しましょう。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

部下が黙ってしまったら
管理職向けに1on1研修を行うと、よく聞かれるのが、
「部下が黙ってしまったときに、つい間を埋めるためにこちらから話してしまう」
という悩みです。
上司や先輩として、部下の意見を引き出したいのに、結果的に自分ばかりが話してしまう。
この状況にフラストレーションを感じている方も多いのではないでしょうか。
部下が黙ってしまう理由はさまざまですが、次のような心理が背景にあることが考えられます。
1「考えがまだまとまっていない。聞かれた瞬間に適切な答えが思いつかず、焦りを感じてしまう」
2「意見が幼稚に見えるのではと不安 失敗を恐れたり、上司や先輩にどう思われるかを気にしてしまう」
3「質問の意図がわからない。どの方向性で答えれば良いのかが曖昧で、迷ってしまう」
4「場の空気に飲まれている。場の雰囲気が硬かったり、他の人が威圧的な態度を取っていると発言しにくくなる」
これらの理由を踏まえ、部下や後輩が安心して意見を出せる環境を整えるには、どうするのが良いでしょうか?
具体的には、上司や先輩の質問がカギとなります。今回は、4つの質問例をご紹介します。
1「選択肢を与える」
「どう思う?」という抽象的な問いではなく、選択肢を示して質問することで、相手が答えやすくなります。
例)
「いま伝えたA案とB案だったら、どちらが良さそうだと思う?」
「スピードを優先するか、品質を優先するか、今回のケースならどちらが適切だと思う?」
選択肢を与えることで、考えをゼロから組み立てる負担が減り、話しやすくなります。
また、過去に否定された経験がある部下に対しても、選択肢があることで、「どちらかを選ぶだけで良い」と安心感を与えられます。
2「絞る」
質問が広すぎると答えにくくなるため、具体的な部分に絞って尋ねるのも有効です。
例)
「このプロジェクトのスケジュールにだけ絞ると、どこが特に改善できそうかな?」
「この商品のデザイン面についてなら、一番気になるポイントはどれだと思う?」
質問を絞ることで、考える範囲を限定し、焦点を当てることができます。
これにより、部下が考えをまとめやすくなります。
3「広げる」
逆に、相手が意見を出しやすい状況であれば、話を広げる質問を使って、深い考えを引き出すことができます。
例)
「もしコストの制約がなかったら、どんなアイデアが考えられる?」
「このプロジェクトが成功したときのイメージを教えてくれる?」
広げる質問は、知識や経験の不足を感じている部下にも効果的です。
自由な発想を促し、アイデアを共有しやすい雰囲気を作ります。
4「視点を変える」
部下が意見を出しにくい場合、視点を変える質問で新たな考えを引き出す方法もあります。
例)
「お客様の立場なら、どう感じるかな?」
「もしあなたがこのプロジェクトのリーダーだったら、どう進める?」
視点を変える質問は、考えがまとまらない部下にとって有効です。
目先のことに集中しがちな若手にとっては、立ち位置を変えるだけで、これまで見えなかった課題や新しい解決策が浮かび上がることがあります。
部下や後輩が黙ってしまう理由は、多くの場合、心理的な負担や質問の仕方に原因があります。
上司や先輩が少しだけ質問の仕方を変えることで、部下の考えを深く知り、信頼関係を築く大きなチャンスになるでしょう。
ぜひ次のミーティングや会話で試してみてください。
(本記事は、『気づかいの壁』の著者・川原礼子氏が書き下ろしたものです。)
株式会社シーストーリーズ 代表取締役
元・株式会社リクルートCS推進室教育チームリーダー
高校卒業後、カリフォルニア州College of Marinに留学。その後、米国で永住権を取得し、カリフォルニア州バークレー・コンコードで寿司店の女将を8年経験。
2005年、株式会社リクルート入社。CS推進室でクレーム対応を中心に電話・メール対応、責任者対応を経験後、教育チームリーダーを歴任。年間100回を超える社員研修および取引先向けの研修・セミナー登壇を経験後独立。株式会社シーストーリーズ(C-Stories)を設立し、クチコミとご紹介だけで情報サービス会社・旅行会社などと年間契約を結ぶほか、食品会社・教育サービス会社・IT企業・旅館など、多業種にわたるリピーター企業を中心に“関係性構築”を目的とした顧客コミュニケーション指導およびリーダー・社内トレーナーの育成に従事。コンサルタント・講師として活動中。『気づかいの壁』(ダイヤモンド社)が初の著書となる。