現実の潜水艇は水の中をスクリューでスムーズに進んでいくが、ナノスケールの世界における流体動力学は、粘りけのある摩擦力に支配されている。

 つまり、ピーナッツバターの中を泳ぐようなものだ。だからナノロボットは異なる推進力原理を採用する必要がある。また、充分な電源を搭載できないだろうし、単独でタスクをこなすだけのコンピュータ能力ももてないだろうから、周囲からエネルギーをひき出せるようにし、そして、外部からの制御信号に従うか、他のコンピュータと協働できるように設計しなければならない。

 体を維持し、他の健康問題に対処するためには、細胞サイズのナノロボットが膨大な数必要になる。人間の体にある細胞は数十兆というのが、現在もっとも有効な推算であり、細胞100個につき1個のナノロボットを用意するとなると、数千億個が必要になる。ただ細胞とナノロボットの最適な割合はまだわからない。ナノロボットの性能が上がれば、必要な数は数桁も変わるかもしれない。

病気ゼロの時代は来るのか
人体革命を現実に

 老化の大きな影響のひとつは、臓器の働きが衰えることなので、ナノロボットの主な役割は臓器の修復と増強にある。大脳新皮質の拡張とは異なり、この方法は、感覚器官ではない臓器を助けて、効果的に物質を血液やリンパ系に送りこむか、そこからとり去ることにある。

 たとえば、肺は酸素を吸って、二酸化炭素をはき出す。肝臓と腎臓は毒素を排除する。消化管全体は栄養素を血液に送る。膵臓がホルモンを生産するように、さまざまな臓器が代謝をコントロールしている。

 ホルモンレベルが変化すれば、糖尿病などの病気になりうる(本当の膵臓のように、血中のインシュリンレベルを測定して、インシュリンを血流に投入する装置がすでに開発されている)。重要物質の供給を監視して、必要に応じてそのレベルを調整し、臓器の構造を維持することで、ナノロボットは人の体をいつまでも健康に保つことができる。最終的には、必要もしくは望むならば、生物学的臓器全部にとって代わることも可能になるだろう。