ナノ医療で老化撃破?
1000歳時代の現実味

 要するに私たちが必要としているのは、個々の細胞や組織において老化から来るダメージを修復する能力だ。それを獲得する方法はいくつも考えられるが、もっとも有望かつ最終的な解決策は、人体に入り、直接にダメージを治すナノロボットだ。

 これで人間が不死になるわけではない。事故や災難で命を落とすことは変わらずにある。それでも加齢による死のリスクが年々、増えていくことはないので、多くの人が120歳を過ぎても健康に生きられるだろう。

 これらのテクノロジーから恩恵を得るのに、その成熟を待つ必要はない。抗老化研究が、1年につきあなたの余命を少なくとも1年延ばせるようになるまで生きていられれば、ナノ医療が老化の残りの問題を解決するまでの時間が稼げるのだ。これが寿命脱出速度である。デ・グレイは、1000歳まで生きる最初の人間はすでに生まれている、と衝撃的な発言をしたが、その発言の背景には合理的な論理がある。

 2050年のナノテクノロジーが100歳の老化の問題を解決できるほど進歩していれば、150歳まで生きられる時代が始まり、2100年までには、新しい問題が発生しても解決できるようになる。

 研究においてはAIが主要な役割を演じ、進歩は指数関数的になるだろう。たとえ、この予測が仰天するようなもので、私たちの直線的思考にもとづく直感はそれをバカげた話だと思ったとしても、これが起こりうる未来だと考えるちゃんとした根拠があるのだ。

命を支える微小機器
ナノテクノロジーが描く世界

 実際はどのようにしてナノテクノロジーは寿命伸長を可能にするのだろうか?

 その長期的なゴールは医療用ナノロボットだ、と私は考えている。それは、ダイヤモンドイドの本体にオンボードセンサー、ロボットアーム、コンピュータ、通信装置、そしておそらく電源を搭載したナノスケールのロボットだ。

 私たちは、映画で見たことがあるような小さな金属製のロボット潜水艇で音を立てながら血液の中を進んでいく姿を想像しがちだが、ナノスケールの物理学はかなり異なるアプローチを要求する。ナノスケールにおいては、水は強力な溶媒(他の成分を溶かしている物質)であり、酸化力のある分子は反応性が高いので、ダイヤモンドイドのような強い物質が必要となるのだ。