お菓子を我慢してまで
欲しかったバッグ

 T作業所の利用者に対する監視の目は、私生活の細部に及んだ。U子さんなどは、支援者付き添いの個人の買い物の中身まで細かくチェックした。買った先で食べてしまえばいいものを、アイスクリーム類の個人購入は、たとえ真夏でも禁止。利用者に応じて、菓子類の内容や購入個数に制限を課し、しかも個包装のものを購入するよう強要する。なぜか、利用者によって飲み物OKの者とNGの者まで区別した(おそらく肥満度に応じていたのだろう)。

 利用者が指示に反したものを買ってこようものなら、U子さんは例によって怒り出す。ときに次週からの買い物禁止の命を下し、付き添いの支援者にも「気をつけるように」と警告した。

 ある女性利用者は家電量販店に連れて行ってほしいと、いつもせがんでいた。スマホに興味を持っている。購入するには高価だし、購入したとしてもさすがに使いこなせそうもなかったが、「見るだけなら」と、ある日個人の買い物を終えたその足で、近くの家電量販店に連れて行った。

 そこでアニメのイラストが入った女の子用の小さなバッグを見つけた。彼女はそのバッグをすっかり気に入ってしまった。値札を見ると、税込1000円程度とそれほど高くない。彼女は自分からこう約束してきた。

「このバッグ買いたい。来週、お菓子我慢するから」

 個人の買い物1回分の小遣いは、1000円までと決められている。お菓子を1週間、長くて2週間も我慢すれば、バッグを購入することができた。

 しかし、このささやかな願いも、「何でも買えると思ったら本人のためにならない」という社員の一声で、儚くも消えてしまう。彼女はしばらくそのバッグに執着していたが、数カ月後には何も言わなくなった。

「虐待されてます!」
交番に駆け込んだ女性

 T作業所が徹底する監視的な懲罰主義。

 アスペルガー症候群の育子さんは、最もその「被害」に遭ってきた利用者の一人だったかもしれない。彼女の買い物禁止はいつものことで、長いときは買い物禁止期間が4カ月以上にも及んだ。ジュース類はなぜか、永続的に禁止されている。必要な衣類は女性職員が代理で購入し、下着までも彼女の嗜好を無視する形で、勝手に買われた。

「洋服や下着ぐらい自分で選んで買いたいよ。欲しい下着だってあるんだから。この施設、おかしくない?みんなお金儲けしたくて、私たちを利用してるんでしょ?」