しかも報告書に書かれている内容の大半は、「心豊かな老後を楽しむためには資産寿命を延ばすことが重要である」という結論に導くもの。

 大騒ぎになったのは「年金収入だけでは30年で約2000万円が不足する」という指摘だったのです。

 そこに込められたメッセージを端的に言えば、「年金も先細りで、もう国ではあなた方の面倒を見られない。自分の生活は、自分で守ってください」ということ。

 これに対し、「そんなに貯金があるわけがない!」「老後は、国が面倒を見てくれるんじゃないの?」と多くの人が反発したため、当時の麻生太郎副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣(金融)が、「世間に対して不安や誤解を与えており、政府のスタンスと違う」と報告書の受け取りを拒否。

 SNSはますます炎上し、国会をもゆるがす社会不安に発展しました。

「老後2000万円問題」は
すでに問題ではなくなっている

 これまで私は「もう日本は終わりだ。老後に未来はない」と天を仰いでいる方に向けて多くの書籍を出版してきました。

 ベストセラーになった拙著『年金だけでも暮らせます』(PHP新書)を読んでくださった読者の方から、老後の不安が解消されたという声も届いています。必要以上に怯える必要はないということをまず伝えたいです。

 そしてじつは、この「老後2000万円問題」は、すでに問題ではなくなっています。

 いったいどういうことでしょうか。順を追って説明してみましょう。

〈図-1〉は、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦無職世帯の収入と支出の差額の推移です。

図-1:65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支同書より転載 拡大画像表示

 2020年には、コロナ禍で危機感を持った人たちが家計の出費を抑えたり、1人につき10万円の定額給付金が給付されたりしたことで、家計はマイナスではなくプラスに転じました。

 コロナ禍が収束すると、物価高が到来したことで再び家計はマイナスに転じはしたものの、それでも驚異的な物価上昇率だった2023年でも3万7916円のマイナスに留まっています。