シニア夫婦写真はイメージです Photo:PIXTA

世間を不安に陥れた「老後2000万円問題」は、すでに解消済みだと経済ジャーナリストの荻原博子氏は言う。さらに、「老後4000万円問題」も現実味のない話なのだとか。専門家が老後資金問題に隠されたカラクリを解説する。本稿は、荻原博子『65歳からは、お金の心配をやめなさい 老後の資金に悩まない生き方・考え方』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。文中の記述は、2024年12月末時点の情報を元にしています。

視聴者が悲鳴を上げた
「老後4000万円問題」

「このままだと、老後資金は2000万円どころか、倍の4000万円が不足します」

 2024年5月、あるワイドショーでのゲストのコメントがSNSで話題になり、大炎上しました。

 以前、「老後(資金)2000万円問題」が話題になったのは、皆さんも覚えているでしょう。

 金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が2019年に公表した報告書をきっかけに注目を集めた老後の資金に関する話題です。

 報告書には「夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では、65歳から95歳までの30年間で、年金収入だけでは約2000万円が不足する」という試算(2017年の調査に基づく)がテレビなどで取り上げられ、多くの方がびっくり仰天しました。

 ところが、今度は「2000万円」どころか「4000万円」も足りなくなるというのですから、開いた口が塞がりません。

「年金収入だけでは約2000万円が不足する」のは、物価が上昇しないデフレを前提とした話。仮に毎年3.5%の物価上昇率が20年続くと、いずれ老後の資金は2000万円ではなく4000万円足りなくなるというのです。

 しかも、これは生活費に限った話です。このほかに、老後は「介護費」「医療費」なども必要です。これも含めれば、少なく見積もっても5000万円以上もお金が足りなくなってしまうでしょう。

 総務省の「家計調査(貯蓄・負債編)」(2023年)を見ると、世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄額の平均値は2462万円と、5000万円には遠く及ばず、半分にも届いていないのです。

投資を誘い込む
「メッセージ」に要注意

 ちなみに、この額は平均値であり、貯蓄のある人から順に並べると、中央値はなんと1604万円。一部の富裕層以外は、まったくお金が足りません。

 これでは、SNSが炎上するのもごもっとも。高齢者たちの嘆きの声が聞こえてきそうです。

 これまで何度もお伝えしてきたとおり、「老後2000万円問題」の背景にあるのは、「老後資金」に対する恐怖を煽り、皆さんを「投資」に誘い込もうとする政府の思惑です。

「老後2000万円問題」のきっかけとなった報告書を作成した市場ワーキング・グループのメンバーには、金融機関の人たちも含まれていました。