米トランプ大統領令で
日本での多様性の取り組みはどうなるか
こうした取り組みに、言わば水を差すような事態も出てきている。25年1月、トランプ氏が米大統領に再び就任し、短期間で多様性に関連する施策に強い制限を課す内容の大統領令を立て続けに発令した。
政府の多様性事業に関連する部局の閉鎖が予定され、米国ではフェイスブックのメタ、アマゾン、金融のシティ・グループ、ゴールドマン・サックス、フォード、ウォルマート、マクドナルドなど、雇用における多様性目標を撤廃したり、後退させたりする大企業が続出している。
米国社会で多様性にかかわる取り組みへのバックラッシュ(反動)と言うべき光景が広がっている。この動きは日本企業にも影響を及ぼす可能性もあり、「多様性の取り組みはもうやらなくていいのでは」という消極的な姿勢を助長する懸念もある。
しかし、これに対して木村氏は、多様性に関する施策の本質は「あくまで成果を出すかどうかが前提であり、その主眼は能力がない人を優遇するものではなく、能力のある人が正しく評価され、能力を発揮して成果を出す仕組みを整えることにある。そもそも、多様な人材が能力を発揮できる環境が整備できているかをしっかりと考える必要がある」ときっぱり断言する。
「トランプ大統領があのように言っているからといって、石破首相が『日本企業でも今後は多様性目標を廃止するように』と発言したとしたら、国内で反発を招くのは必至」とも指摘する。
そもそも日本では、米国のような「反動」的なムーブメントが起こるほど、そもそも多様性の包摂が進んでいるわけではない。仮にそのことを度外視したとしても、実際、高度IT領域では8割以上の企業がDX人材不足を感じており、多様な人材の活用は企業の競争力強化に直結する課題だ。
ダイバーシティ推進は政治的な追い風があるか、あるいは逆風かということとは関係なく、企業の持続的成長に不可欠な経営戦略として捉えるべきなのは明らかだ。特に日本では、少子高齢化による人材不足が深刻化する中、多様な人材の能力を最大限生かせる仕組みづくりが急務である。
一方、どの企業も喉から手が出るほど高度IT人材が欲しいという深刻な人手不足の状況がある。そして、高度な能力を持ちながら、それを生かせない人が相当数いるとしたら、その人たちが働きやすい環境を整えて、働いてもらうのはきわめて合理的な企業戦略と言えるだろう。
次回は、日本企業で発達特性の高度IT人材の雇用を実現している企業の現場の取り組みを紹介する。研究会を機に雇用の制度設計を進め、「ITシステムの脆弱性診断」の業務における採用を始めようとしている電通総研に話を聞いた。