下落した株でも損しない!
物納時に上場株式を使うメリット

 物納制度の利用には要件があるものの、「上場株式」を用いた物納には大きなメリットがある。上場株式で物納する場合、相続開始時点の時価で物納できるのだ。つまり、相続開始後に株価が大きく下落している上場株式であっても、相続税の物納に生かせば売却するよりも高い評価額で相続税を納めることが可能だ。

 現在日経平均株価は3万円後半から4万円台を堅調に維持しているが、トランプ政権は関税強化などの動きを見せており、乱高下を繰り返す可能性は否定できない。生成AIの開発が市場を揺るがす場面も増えている。自然災害や疫病でも左右される上場株式だが、たとえ下がってしまった場合でも「生かし方」があるのだ。

 上場株式を用いて相続税を物納する場合、含み益に対して譲渡所得税は課税されない。上場株式を売却した上で相続税を納める場合、売却時の利益に対して譲渡所得税が発生する。しかし、物納は上場株式の売却ではないため課税されないという大きなメリットもある。

 相続税を納める現金が用意できず、延納も難しい場合は不動産を物納するケースもある。しかし担保が付いている不動産は物納できず、境界があいまいな土地も物納に使えない。物納できる不動産なのか調べた上で申請する必要があり、上場株式と比較すると労力がかかってしまう。上場株式の物納にはこうした負担はかからない上、大切な不動産があるなら物納で差し出さなくてもよくなる。

物納時の株式含み益の
扱い方には注意も必要

 上場株式を売却せずに物納をすれば譲渡所得税はかからないが、含み益の扱いには注意も必要である。上場株式の売却による相続税の納付か、物納を選択するのか、決める前に「取得費加算の特例」を使ったシミュレーションを行うことがおすすめだ。取得費加算の特例とは、相続開始日から3年10カ月以内に相続財産を売却した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できるものだ。この方法は譲渡所得税の軽減につながる。

 ただし、この特例を受ける際には確定申告が必要となる。上場株式の物納時には、取得費加算の特例など、相続税の制度に精通した税理士に相談することが望ましいだろう。

上場株式の物納を
行う際の注意点

 下落した株を有効活用できる物納制度だが、押さえておきたい注意点もある。まず、上場株式は第1順位であるが、非上場株式は第2順位である。第1順位に該当する財産が無ければ非上場株式も使えるが、譲渡制限株式などの管理処分不適格財産に該当するものも多く、定款変更などが必要となるケースもある。上場株式よりも手続きが複雑になりやすい。

 また、財産の所在は国内に限られるため、所有している株式が外国企業の場合は対象にならないおそれがある。事前に申請可能な株式かを調べる必要がある。そして、上場株式を物納する時には、相続発生後に株価が上がっても上昇した分の含み益は加味されない点にも注意してほしい。相続開始後に株価が急上昇した場合は、売却による相続税の納付を検討した方が良い可能性がある。