持ち家の「家賃」が消費者物価指数に下方バイアス?
体感物価と消費者物価指数が乖離する要因は他にもある。持ち家の「帰属家賃」の影響だ。自分で家を所有している人は家賃を支払う必要はない。総務省の統計では、自宅に住む人は、持ち家から何らかのサービスや便益を享受していると考えている。そして、持ち家所有者も、相応の家賃を支払っていると仮定して消費者物価指数の品目に含めている。その目的は、持ち家居住者と貸家の生活費を公平に比較すること、住宅ローン支払い負担を考慮するためとみられる。

わが国の消費者物価指数に占める帰属家賃のウエートは、全国基準で15.8%(東京都区部は20.0%、20年基準)と高い。1999年以降、帰属家賃の前年同月比変化率は、ゼロ近傍だ。つまり、帰属家賃はわが国の消費者物価指数に下方バイアスをかけている。そのため、物価の評価は帰属家賃を含まない指数で行うべきだとの指摘もある。
そもそも、経済環境の変化のスピードに、消費者物価指数の基準改定の頻度が追い付かなことも指摘される。近年の世界経済は、目まぐるしく加速度的に変化している。例えばAI(人工知能)関連分野の成長にはデータセンターが欠かせず、電力需要が増加するなど産業構造そのものを変化させている。
その一方で、消費者物価の基準が変わるのは5年ごとだ。消費者物価を構成する品目のウエートは、家計調査の結果を基に決定される。ウエ―トの決定方法は、買い物かごをイメージすると分かりやすい。日々の生活に欠かせないモノやサービスの対象、その数量を決めてかごに入れる。その時のかご全体の値段を100とし、後々の変化を指数で示す。
計算の都度、買い物かごの中の品目と数量を変更すると、物価の変化が品目の変更によるものか価格変動に影響されたか分かりづらくなる。この問題を避けるために、個々の品目のウエートを基準時の数値で固定し、価格の変化を評価する(ラスパイレス指数という)。
私たちの生活に必要なモノやサービスの数量が、5年間同じとは限らない。食料品であれば毎週、日用品なら月に数回などと購入の頻度は異なり、その時々によって購入数量も変化する。こうしたことも、体感物価と消費者物価指数が示す、マクロレベルの物価の変化が乖離する一因だろう。