その当時の私は法律のことにはまったくの無知だったので、自分が損になる証拠どりだったことにすら気づいていませんでした。もっとお金をもらえたはずとわかったのは弁護士に依頼したあとのことです。

 その経験から、離婚で理不尽な思いをする人をつくらないために、世の中にはそれまでまだなかった離婚カウンセラーという職業を始めようと決めたのです。

 いま思うと、元夫の対応にはちょっとズルいところもありました。普段はベンツに乗ってロレックスをしているくせに、離婚調停にはわざとボロボロの車で来て、時計も安物に替えていました。そうやって貧乏だから払えないという調停委員の心証にもっていったのです。

夫の財布からお金を抜いても
罪に問われない!?

 彼は不動産業でしたが、宅建(宅地建物取引士)の資格を持っていなかったので、私が代わりに取ってあげたのです。彼の事業が順調だったのはそのおかげでした。

 時代はバブルの終わり。家を一軒売ると報奨金だけで100万円も稼げたので、彼の財布にはいつもお札がいっぱい入っていました。

 でも、彼は家にそのお金を入れてくれません。ある程度の額を決めて家計に入れてはくれましたが、家のローンと生活費でぜいたくはできません。自分ばかり遊んで散財する夫に腹が立ったので同居の母を見張りに立てて、夜中、夫が寝入っているスキに彼の財布から10万円ぐらいずつ抜いていました。

 というのも、彼の財布には毎晩の日付の入った高級な食事、スナック、クラブの領収書がザクッと入っていて、10万円くらい抜いてもまったく気づかないのです。このお金を夫が稼げているのも私の内助の功のおかげだと、自分の行為に大義名分を立てたのです。

 よいことではありませんが、正面から要求したところでケンカになるだけですし、背に腹は代えられなかったのです。

 実は夫婦の場合、パートナーのお金を抜いても罪にならないのです。正確に言うと窃盗罪ではあるのですが、犯人が配偶者、直系血族または同居の親族の場合は刑が免除される規定があるからです(刑法244条1項の「親族間の犯罪に関する特例」)。とはいえ当時はこんな知識もなく、ただただ稼ぎをシラッと隠している夫に腹が立っての仕返しでした。