最近では、尹氏の拘束を始めとする一連の流れを「不当」とし、弾劾と拘束に反対する集会が各地で行われていた。そして先日、遂に事態が大きく動いたのである。
全国に広がった抗議の声~52日ぶりの釈放に歓喜する支持者たち
2月に入ると集会の規模と勢いは週を追うごとに増し、ソウルから釜山、大邱、大田など韓国各地へと拡大。3月1日の「日本の植民地支配に抵抗して独立運動が隆起した日」である「三・一節」と呼ばれる特別な祝日に集会は最高潮に達し、ソウル市内だけで10万人以上が参加したとされる。
そして3月7日、突然、拘束取り消しを裁判所が認め、尹氏が釈放される見込みだと報じられた。しかし、審議に時間を要し、当日内の保釈は見送りとなり、翌3月8日の夕方、尹氏は52日ぶりにソウル拘置所を出て国民の前に姿を現した。この様子は各メディアで速報された他、YouTubeでもライブ中継され、拘置所前に集まった多くの支持者は尹氏を目にすると一斉に歓喜の声を上げた。
久々に見る尹氏の姿は白髪が増え、やつれた印象を少し受けたものの、しっかりとした足取りで歩き、時折笑みを浮かべながら、出迎えた支持者たちに何度も深々と頭を下げる姿が印象的だった。
「尹氏弾劾・拘束反対」の集会や世論を見ていると、「共に民主党」など左派政党への批判に加えて、彼らが長年推進してきた「親北、親中」つまり北朝鮮や中国寄りの政策や主張を掲げてきたことに強い危機感を持つ国民が多いことが伺える。
特に尹氏の弾劾・拘束に反対する集会では、20~30代の若い世代の参加も目立った。彼らの中には学生時代に文在寅(ムン・ジェイン)前政権での過剰な反日、親北、親中政策を経験した者も多く、左派の姿勢に反感や疑問を持ち、今回声を上げたことが世論を動かした一因ともいえよう。
依然として予断を許さない複雑な政治情勢
尹氏が弾劾、拘束に至った当初は、野党「共に民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン)氏が大統領選挙に出馬し、大統領に就任するという、日本にとって懸念すべきシナリオが危惧されていたが、現在ではその可能性は低下している。
その理由は、李在明氏が先月、自身が市長を務めていた時代の公職選挙法違反事件の裁判で、懲役2年の実刑を求刑されたからである。判決は3月26日の予定だが、仮に李在明氏の懲役刑が日本の最高裁に相当する大法院でも確定すれば、今後10年間、国政選挙への出馬が禁じられることになる。こうした事情で、今は李在明氏も、尹氏を攻撃するよりも自らの問題へ対処せざるを得ない状況になっている。
ひとまずは朴槿恵(パク・クネ)氏の時のような弾劾・罷免の二の舞を避けられたということで、最悪の事態を免れたとはいえるものの、先行きは依然不透明で、まだまだ予断を許さない状況である。
尹氏を支持する声が国民の間で高まってはいるが、左派支持者を中心に依然として尹氏に反感を持つ国民も少なくない。中道や無党派層の人々の間でも、尹氏の保釈に対する意見は分かれている。
また、尹氏が釈放されても、すぐに大統領職務に復帰できるわけではない。国会で可決された弾劾が正当かどうかを判断する、憲法裁判所による審査も残っている。尹氏を敵視する勢力は与野党を問わず存在し、仮に尹氏が大統領として復帰できたとしても順風満帆とはいかず、政局の安定化には時間を要するだろう。