次期大統領選を見据えた政敵たちの動き
すでに次期大統領選挙を見据えた「尹氏の政敵たち」の動きも活発化している。特に注目すべきは、尹氏のかつての腹心でありながら、戒厳令の際には反旗を翻した韓東勲(ハン・ドンフン)氏である。
韓氏は検事時代に尹氏と先輩・後輩の間柄で信頼関係を築き、政権では側近となった。一時は「尹氏の後継者」「次期大統領候補」とも目されていたが、次第に意見の相違から二人の間に溝が深まり、尹氏の戒厳令発令では、与党内でありながら公然と尹氏を批判し、李在明氏と手を組んでいたとさえ言われた。
韓氏のこうした行動を「裏切り」「隠れ左派」として批判し、将来性はないとする見方も出ていた。韓氏自身もここ数カ月は沈黙を守っていたが、最近出版された著書が大きな注目を集め、ベストセラーとなっている。
本のタイトルは日本語に直訳すると『国民が先だ』という意味で、いわば「国民ファースト」といったところだろうか。内容の多くは尹氏批判だとされ、評価は賛否両論ある。一方で、韓氏の一連の行動に疑問を呈する声も少なくない。
韓氏が保守政党の代表でありながら、李氏ら左派と裏でつながっているのではと指摘する声は根強い。さらには文在寅氏が2012年に出版した著書が『人が先だ』というタイトルだったことから、韓氏の著書を“文氏の模倣“と揶揄する声や、このタイミングでの出版に意図的なものを感じるとの指摘もある。
もう一人の尹氏の政敵として、中道政党「改革新党」の党首、李俊錫(イ・ジュンソク)氏の動向も注目される。李俊錫氏も前回の大統領選挙では尹氏と協力したが、その後不協和音が生じ、最終的には袂を分かった。
与党「国民の力」を離れた李俊錫氏は新たに中道派政党「改革新党」を立ち上げ、昨年4月の総選挙では3議席ながら第三野党として注目を集めた。
韓氏と李俊錫氏はともに40、50代と、次期リーダーとしては若手であり、エリート街道を歩んできた経歴で国民から期待される一方、これまでの言動を振り返ると、周りと足並みを揃えるのが下手で独善的な面が見られ、政治家としての資質や手腕には疑問符がつく。
この他、過去に大統領候補として名が挙がった安哲秀(アン・チョルス)氏なども、すでに次期大統領選を意識した発言を行っている。
尹大統領が釈放されたとはいえ、韓国の政局は依然として先行き不透明であり、様々な思惑が渦巻いている。国民の声が結実し、最善の方向へ進むことを願いつつ、今後も状況を注視していきたい。