もともと、戦前の国会は、演説の達人の集まりであり、答弁書をそのとおり読み上げるだけというのは、政治家にとってひじょうに恥ずかしいことでした。しかし、軍靴の音が高まると、軍部が国会演説原稿を事前チェックするようになり、国会議員たちは原稿を棒読みするしかなくなったのです。
その時期は、政治家たちは泣く泣く原稿を棒読みし、戦後、軍部が解体されると、棒読みはなくなるはずでした。しかし、事態はそうは進まず、答弁書を読んでもいいという例外規定が、どんどん拡大解釈され、吉田茂首相の時代には演壇に「見台」が設けられました。その見台に原稿を置いて原稿を読めるようになったのです。吉田首相が演説を朗読するようになり、その後、大半の政治家が真似るようになったのです。
吊るす、お経読み、ガチャン…永田町のフシギな隠語
各業界に隠語があるように、永田町にも多数の隠語が存在します。そのごく一部を紹介してみましょう。
まず、「寝る」は、野党が国会審議を拒否すること。一方、寝ていた野党が審議再開に応じることを、「起きる」といいます。
与党による強行採決は「ガチャン」と呼ばれます。野党とぶつかるときの激しさから生まれた言葉のようです。
法案審議に関して、「お経読み」は、担当大臣が法案の趣旨説明を行うこと。担当大臣は自分の言葉で法案内容を説明するわけではなく、ひたすら官僚の作文を読み上げるので、その退屈さから「お経読み」と呼ばれるようになりました。
そして、「吊るす」や「枕法案」は、法案審議の駆け引きに関する言葉。まず、「吊るす」とは審議を後回しにすること。一方、「枕法案」は重要法案を「吊るす」ための別の法案のこと。たとえば、野党は、他の法案を先に審議し、長時間の質問時間を求めます。そうして、審議を長引かせ、与党の通したい重要法案を吊るしたままにしておくわけです。通常は少数の野党としては、審議がどんどん進行して、採決にもちこまれると、勝ち目がありません。そこで、枕法案を使って、与党から譲歩をひきだそうとするのです。