セブン社長交代で体制刷新も、内部資料にもにじむ「国内独り負け」「北米グリップ不能」の苦境ぶりセブン&アイ・ホールディングスは、井阪隆一社長(写真左)が退任し、後任にスティーブン・ヘイズ・デイカス取締役会議長を充てる人事を発表した。体制刷新でカナダ大手の買収提案に抵抗する考えだが…… Photo:SANKEI

セブン&アイ・ホールディングスは6日、井阪隆一社長が退任し、後任にスティーブン・ヘイズ・デイカス取締役会議長を充てる人事を発表した。併せて、北米のコンビニエンスストア子会社の上場などを盛り込んだ企業価値向上策も公表した。同社は、カナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールから7兆円規模での買収提案を受けており、コンビニを中核とする単独路線で買収案に対抗する。ただ、肝心のコンビニ事業は逆風下にある。内部資料や取材を基に日米のコンビニ事業の深刻な不振ぶりを明かす。(ダイヤモンド編集部 下本菜実、名古屋和希)

セブン&アイで9年ぶりトップ交代
カナダ大手の買収案に単独路線で対抗

「心残りはない。思い切ってやった」。セブン&アイ・ホールディングスが3月6日に開いた記者会見。5月での退任を発表した井阪隆一社長はそう言い切った。

 セブン-イレブン・ジャパンの社長だった井阪氏を更迭しようとした鈴木敏文前会長の電撃退任を受け、2016年にグループトップに就いた井阪氏は9年で退陣することとなった。

 井阪氏は、鈴木氏が敷いた総合小売り路線からの転換を目指し、そごう・西武の完全売却やイトーヨーカ堂の持ち株比率の引き下げに踏み切った。一方で、21年に2兆円で米スピードウェイを買収するなどコンビニエンスストアへの集中路線を推し進めた。

 だが、企業価値は満足する水準に引き上がったとは言い難い。井阪氏も会見で「事業構造改革を進める中で、特別損失を出すことにより株主還元の原資が失われた」と認める。そごう・西武売却は2度にわたり延期されるなど時間も失った。

 市場平均を下回る低い成長率が、危機を招くこととなる。昨夏にカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールが7兆円規模での買収を提案したのだ。

 防衛策として、創業家によるMBO(自社買収)計画が浮上し、3メガバンクや伊藤忠商事に協力を求めたが、9兆円に上る資金調達のめどが付かずに頓挫した。「伊藤忠のメリットが分からないスキームで、最初から無理があった」(セブン&アイ幹部)。

 土俵際に追い詰められたセブン&アイにとって、次の一手が体制刷新だった。井阪氏に代わり、かつて西友のトップを務めたスティーブン・ヘイズ・デイカス取締役会議長を後任社長に起用する。6日に公表した企業価値向上策に新味はないが、トップ交代と合わせて目新しさを出した。

 井阪氏の後継人事については、1年半前から指名委員会で議論が進められてきた。別のセブン&アイ幹部によると、ロングリストとして12人の候補者の名前を挙げ、そこからショートリストとして6人に絞り込んでいたという。6人のうち社内が4人ほど、社外も2人ほどが候補に挙がったという。社内では北米事業を統括するジョセフ・マイケル・デピント氏の名前も含まれていたとされる。

 指名委はトップ交代の時期として今年か来年を念頭に置いていた。ところが、「井阪氏本人が『今年が、けじめがつく』と主張し、今年の退任となった」(同幹部)。昨秋の井阪氏と指名委との議論で、デイカス氏が浮上し、9年ぶりのトップ交代が実現した。

「(井阪氏が築いた)土台を次のレベルに持ち上げる」。デイカス氏は会見で、コンビニを中核に再成長を目指すと強調。大胆な株主還元と投資で、企業価値を向上させる考えだ。クシュタールの買収提案に「単独路線」で対抗する。

 ただ、新体制は厳しい船出となる。足元で肝心のコンビニは深刻な不振が続いているためだ。コンビニの苦戦は単独路線にも陰を落とす。次ページでは、ダイヤモンド編集部が入手した内部資料や取材を基に日米のコンビニの苦境ぶりを明かしていく。