深刻な高齢化と人手不足
儲からないので機械化も困難

「2023年に祖父が農業を続けられないんじゃないかという話になりました。経営が赤字で、生活費のぶんを借金しないといけないほどでした。父親も別の仕事をしていたので、もう廃業するしかないと。そのときに、実家の周りの水田風景がなくなってしまうのはすごく寂しい気持ちになったんです。くわえて、農業の担い手が減っていくことを逆手にとって稼いでいけるチャンスもあるのではないかと思いました」

 米利休氏は、一念発起して2024年春から祖父とともに農業を開始。農業に携わるのは、子どもの頃に種まきを手伝って以来のことだった。

「農作業はたしかに大変ですが、楽しいです。もともと体を動かすのが好きですし、機械をいじるのも好きなので、自分に合っているなと思います」

 慣れない仕事に奮闘中であるが、東大出身の秀才である米利休氏に、現在の農業はどう映っているのか。

「やっぱり高齢化と人手不足は深刻だと思います。僕の地域でも農家はみな70歳前後で、継ぎ手がいないので廃業する人も多いです。全国的に同じ傾向だと思いますが、人手が不足し、生産量を保とうとすると、そのぶんひとりあたりの経営面積を増やさなければならない。そうなったときに、機械代がすごく高くなります。それをペイするだけの収入が見込めるか、という問題もあると思います」

 担い手が増えない理由は、やはり金銭面が大きいという。

「結局は上手にやらないと儲からないからです。米だけではなく野菜も含めて、生産するための経費と売価が見合っていないと思います。基本的にJAさんや他の卸売業者に卸すと安くなるのですが、だからといって自分で販路を開拓する時間的余裕や知識がほとんどの農家にはないです」

 ただ、米利休氏は前述のように農業の厳しい現状を逆手にとって、飛び込んだ。そこにはこんな勝算があったそうだ。

「高齢化が進み、業界人口が減少すれば生産物の価値は相対的に上がる。そのときに新たな販路などを持っていれば、活路はあるのかなと。なので、僕は農業を始める際にSNSで発信して認知を拡大し、自分の姿勢に共感してくれるファンに直接売るというプランを立てました」