JR東日本に入社後、『ecute』プロジェクトを立ち上げ、「エキナカ」の文化を定着させた鎌田由美子さん。サーキュラーエコノミー(循環型経済)の観点から地域の1次産業を見つめる鎌田さんが今回対話する相手は、広島県東広島市で農業を営む「アグリ女子」、脇智美さんです。脇さんには、広島県を「落花生の産地」にするという大きな夢がありました。
広島県を千葉県のような
落花生の産地にしたい
ONE・GLOCAL代表。1989年、JR東日本入社。2001年、「エキナカビジネス」を手がけ、「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長に就任。その後、JR東日本の本社事業創造本部で「地域再発見プロジェクトチーム」を立ち上げ、地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。2015年、カルビー上級執行役員就任。2019年、ONE・GLOCALをスタート Photo by Teppei Hori
低収入、人口減、高齢化、そして増加する自然災害など、農家を取り巻く環境は年々、厳しさを増している。さらに新型コロナウイルスの感染拡大による飲食業界の低迷は、食材を提供する農家に追い打ちをかけている――。
現代人のライフスタイルにおける「地域の1次産業×サスティナブルなものづくり」に大きなポテンシャルを感じている鎌田由美子氏が今回、注目したのは、広島県東広島市で農業を営む「アグリ・アライアンス」の脇智美氏である。
2007年に智美氏の義父・伸男氏が60歳で農業を始め、アスパラガスや白ネギの栽培を開始。2016年に法人化した。智美氏も翌年から農業を手伝い、現在は、後に同社に加わった夫の伸哉氏とともに事業を継承している。
白ネギの連作障害(同じ土壌で同科の野菜を繰り返し作り続けることによって細菌による病気が発生すること)対策として着手した「落花生」を、ビニールハウス内での「はさがけ」による天日干し(詳細は後述)によって乾燥させるなど、そのユニークな栽培・加工方法や商品に次第に注目が集まるようになる。
2019年には東京大学と共同研究農場を開設。落花生の栄養分に関する共同研究を開始したり、手掛けた商品が「東広島マイスター」(東広島市の食文化を盛り上げるために同市の農林水産課が立ち上げたブランド)に選ばれるなど、「未来の農家の姿」(鎌田氏)として注目が集まっている。
今回、夫に先がけて農業の世界に飛び込んだ理由や、千葉県と茨城県だけで全国の生産量の9割を占める落花生の栽培を広島で始めた理由、そして、一大産地では行われていないビニールハウス内での天日干しを実施する理由などを、脇智美氏に聞いた。
そこには、「広島県を千葉県のような落花生の産地にする」という大きな夢があり、しかもそれが地域を巻き込んで着々と進んでいるのである。