オーバーワークで細胞の修復が追いつかないと
「持ち越し疲労」に

「今日も朝から、だる重…」脳の“休め”アラームに無頓着な人が必ずやっているNG行動渡辺恭良氏 神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科特命教授

 そもそも「疲労」状態のときに体では何が起こっているのだろう。

 疲労とは、労働や運動でオーバーワーク状態になったときに全身の細胞に生じる活性酸素によって細胞が酸化し(さびつき)、機能が低下することが発端となる。機能低下した細胞は休息することによって修復され、翌日には本来の機能を取り戻す。これが通常の「疲労」だ。

 しかし、年齢を重ね、また、オーバーワークによって細胞の修復が追いつかなくなると、疲労を翌日以降にも持ち越すようになる。これを「持ち越し疲労」と呼ぶ。持ち越し疲労は、1日単位、月単位、年単位と加算されていき、やがて疲労を修復する機能が破綻すると「慢性疲労」状態となる。

【疲労を持ち越すと、やがて慢性疲労に】

※渡辺氏の取材により作成

「私たちが疲れた、と感じるのは、疲労の蓄積状態がそれ以上悪化しないように休息の必要性を知らせるための、体からの重要な生体アラームなのです」

 疲労のほかに、ウイルスや細菌が侵入したときに起こる「発熱」や、体の部位の異常を知らせる「痛み」も、危険信号を知らせる生体アラームである。

 発熱、痛み、疲労――これらの生体アラームが発されたときには、傷ついた細胞を修復するために十分な休息をとることと、修復のためのエネルギーを食事から補うことが必要になる。しかし、私たちは発熱や痛みほど疲労を重視せず、休息よりも仕事を優先してしまいがちだ。すると、細胞の修復が間に合わず、細胞の酸化が進む。細胞の異常を感知した免疫反応によって体のあちこちで炎症も起きる。細胞の酸化や炎症によって、活動と休息のバランス調整をしている自律神経機能が低下し、頭痛や肩こりなどさまざまな不調や慢性的な疲労症状が起こっていく。

 このような疲労がもっとも集積するのが「脳」である。

「脳の細胞や神経細胞にも疲労は起こります。脳というと、認知に関わる情報処理をしているところというイメージが強いと思いますが、脳は、動作をするときには筋肉や心臓、呼吸系など全身のあらゆる組織や臓器に指令を送っています。また、安静時であっても、姿勢維持のために脳は働いています」