つまり、脳は全身のコントロールセンターであるため、最も疲労しやすいのだ。脳が疲労し、情報処理などの実行を行う部位の働きが低下してくると、脳の別の部位が意欲を高めさせようとして励ましたり、癒やしホルモンと言われる神経伝達物質のセロトニンを分泌してサポートしたりする。しかし、疲労が積み重なるとセロトニンの分泌も低下し、脳が慢性疲労状態になり、回復が難しくなる。
「脳は、いつでも全身の機能を働かせられるようにアイドリング状態を保っています。このため、脳は体重の約2%の重量しかないにもかかわらず、エネルギー消費量は体全体の約20%を占めるのです」
いつもエネルギーがカツカツの状態で働いている臓器が脳なのだ。
情報量の多さ、マルチタスク、漠然とした不安感…
脳が疲労する条件が揃う現代
さらに現代の生活には、ビジネスパーソンにとって脳が疲労しやすい条件が揃っている。
条件1 情報処理量が多い
デジタルツールが多様化した現代では、たえず情報が入ってくる。
「現代人が受け取る情報量は10年前の何百倍にもなっているといわれます。脳は情報の取捨選択のために常に動員され、消耗しているのです。その結果、処理しきれない情報のゴミが溜まったような状態となり、必要なものを選べなくなってくる、というのが脳疲労の特徴的な症状です」
条件2 マルチタスク化で負担がかかる
複数のタスクを並行して行うマルチタスクも、脳を疲れさせる要因となる。メールチェック、チャット、返信、資料の作成、オンライン会議など、さまざまな業種にデジタル環境が入り込み、誰もがマルチタスクで仕事を進めているのが現状だ。
「マルチタスクは一見効率が良いように見えますが、2つ以上のタスクを処理するときには、脳が素早くタスクの切り替えをしています。切り替えのたびに、脳はそれまで行っていた処理を停止してもう一方のタスクのために情報、思考を再構築する。この繰り返しによって脳に負担がかかります」
条件3 先行きの不安感
人生の過ごし方の多様性、社会の先行き不透明感、地球規模の環境変動など、この先の未来はどうなっていくのか、漠然とした不安を抱えている人が多い。
「生成AIが使われるようになり、便利になった側面もある一方で、生成AIが提供する情報は信憑性がはっきりしないものです。わからない、経験による実感をともなわない、というものに対して人間はあまり強くない。大きく進化した情報に頭脳が追いつかないギャップも、脳を疲労させる要因となります」