東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊された。西成活裕氏（東京大学教授）「迫りくる巨大地震から身を守るには？ これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。
画像はイメージです Photo: Adobe Stock
将来あと何回、噴火するのか？
実際の噴火はどのようなものでしょうか。ここでは姶良カルデラと桜島火山を見てみましょう。
図にマグマだまりのAとBがあります。Aは大きいマグマだまりで、入戸火砕流と名付けられている火砕流を出し、姶良カルデラをつくった巨大噴火の原因となりました。
図 姶良カルデラと桜島のマグマだまりの概念図 朝日新聞による図を一部改変（イラスト：田渕正敏）
その巨大噴火は約2万9000年前に起きたのですが、マグマが全部出たわけではなくて、今でもまだしっかり残っていて、次の噴火を待っています。
姶良カルデラは2万9000年前が1回目。その前にも噴火はあったけれど、基本的には2万9000年前の巨大噴火を1回目と考えてよいでしょう。
すると、怖いのは「将来あと何回、噴火するの？」という話です。
阿蘇山の噴火もまだ続く
熊本にある阿蘇カルデラは、過去に4回噴火しました。30万年前からはじまって、4回目が9万年前ですが、カルデラをつくるような大きな噴火はだいたい1回では終わらず、数回は起こるんです。
仮に阿蘇山と同じように4回が標準だとすると、姶良カルデラはまだ3回あるという話なんですが、そもそも火山の寿命は100万年ぐらいだから、それも考える必要がある。
阿蘇山の場合は噴火が順に数えられていて、いちばん古い活動を見ると最初の阿蘇1がだいたい30万年前ぐらい。いや、40万～50万年ぐらい前にも溶岩は出ています。
いずれにせよ阿蘇山もまだ100万年の折り返し地点にきていないわけですから、それでもすでに4回やっているということで、さらにあと4回あったら大変ですよね。
ちなみに、阿蘇4のように火山の名前のあとに数字が入るのは、阿蘇から出た火砕流の4番目という意味です。これは火山学の一般的な表記なのですが、阿蘇では阿蘇1火砕流から阿蘇4火砕流まであります。
とにかく阿蘇山はいま、阿蘇5を準備しているところなんです。
阿蘇山と同じようにナンバリングしていくと姶良カルデラはいまは姶良1ですね。そして、これから数字が増えていく。カルデラの噴火とはそういうきわめて物騒な話なんです。
その姶良カルデラの内側、南端付近には桜島があります。一度できたカルデラ内の火山活動だから規模は小さいのです。
どれぐらい小さいかというと、もとの姶良カルデラのマグマだまりと比べると、だいたい10分の1～100分の1ぐらい。それがもう1つのマグマだまりで、深さは約4～6キロメートルです。
大正時代の大噴火
桜島はしょっちゅう噴火していて、いまも3000メートルの噴煙が毎日のように上がったりしていますが、ここ60年ぐらい特に活発なんですよね。
マグマが上がってきては小きざみに噴火している。桜島というから島に見えるけど、よく見ると東の大隅半島で九州本土とくっついているんですよね。
以前はたしかに島だったけれど、1914年、いまから100年ぐらい前の大正時代の大噴火で大量の溶岩が流れ出してくっつきました。
そのときの大噴火の際には火砕流が出るし、地震が起きるしで、50名を超える方が亡くなるなど、大変な災害でした。
その大正時代の大噴火を起こしたのは、やはり図のマグマだまりで、おおもとよりは小さいけれど油断はできない。
このマグマだまりは現在100年経って、またパンパンに膨れているんです。なにがマグマを供給しているかというとAのマグマだまりですね。
噴火を予測する方法
姶良カルデラができたのは約2万9000年前と、火山の歴史で考えると決して古くはなく、それを作ったAの親マグマだまりも元気で生きているし、Bの子マグマだまりはもっと元気で、桜島は頻繁に噴火しているということです。
なお、桜島が噴火するとき、それは、すなわちマグマが上がってくるときですが、そのときはわずかだけ山が膨れることがわかっています。
「傾斜計」で傾斜を精密に測っていて、マグマが上がってくると、それが少し動くんですよね。
数十秒前といった直前ですが、山が膨れて、「いまから噴火しますよ」と教えてくれる。それで10～30秒間噴火して、また山が縮む。
つまり、噴火の前にマグマが地面を押し上げるんですが、噴火するとマグマが出るからヒュッと収縮するわけ。
それを24時間態勢で測ることによって噴火の予測ができます。それもまた図の子マグマだまりの話です。
では親マグマも同じように膨れるかというと、これはわからない。
わからないけれど、実は桜島の大正時代の大噴火の前に「水準測量」といってミリ単位で地面の上下の動きの測定をしています。
それで、噴火の前後で比較すると、マグマが出たあと沈降したことが明らかになっています。
だからマグマが出ることによって地殻が変動するというところまではわかっているのですが、姶良カルデラの噴火の前はどうだったか、今後どうなるかはわかりません。
今後の大噴火について
繰り返しますが、桜島は、1914年に大正噴火という大きな噴火をしました。
その噴火では、火砕流を出して、さらに地震も起こして50名以上が亡くなりました。それからすでに100年以上が経過しています。ある程度、マグマだまりにマグマがたまっていることは間違いありません。
京都大学の桜島火山観測センター長をしていた井口正人教授は、2020年代にそうした大噴火があるだろうと予測しています。大変なことですね。
参考資料：【京大名誉教授が教える、富士山が噴火する日】大量の溶岩で新幹線や東名高速は分断、火山灰で首都圏のライフラインが止まり、被害総額は2兆5000億円、3000万人が被災する…
（本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』を抜粋、編集したものです）
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省（現・経済産業省）を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士（東京大学）。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。
「科学の知」を活きた知識に――著者より
最近の日本では地震や噴火がとても多い。皆が不安を抱いている一方、これが2011年に起きた東日本大震災（いわゆる「3.11」）と関係があることを知る人は少ないのが実情です。
本書でも解説したように、地震と噴火が頻発するのは「3.11」によって地盤に加えられた歪みを徐々に解消しようとしているからです。日本列島は千年ぶりの「大地変動の時代」がはじまったため、今後の数十年は地震と噴火は止むことはない、というのが私たち専門家の見解なのです。
これに加えて、近い将来に6800万人を巻き込む激甚災害が控えています。首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山など活火山の噴火が、いずれもスタンバイ状態にあります。こうした喫緊の事実を高校で学ぶ機会がなくなったことは、国民的損失以外のなにものでもないのです。
そこで私は「いまからでも決して遅くない」と説きます。それには先達がいたのです。約150年前の明治初期、福沢諭吉は『学問のすゝめ』を刊行しました（初版1872年）。欧米の近代的思想を身につけ、自覚ある市民として意識改革することを力説した名著ですが、文章は平易にして情熱に満ちており全国民の10人に1人が買ったといいます。私の気持ちも福沢とまったく同一です。
すなわち、いまから約十年後に迫る南海トラフ巨大地震＝「西日本大震災」から、「地学」の力で1人でも多くの命を救いたいからです。
もう一つ、地学は「おもしろくて、ためになる」科目でもあります。このフレーズは戦前に雑誌『キング』『少年倶楽部』を出版した講談社がつくったものです。私もその方針で本書を執筆し、文系読者が苦手な数式や化学式をほとんど用いませんでした。
実は、世の中にはためにはなっても面白く読めない理系本が多いのですが、そもそも学校に憂鬱な思い出しかないのは、「たしかにためにはなるかもしれないが、全然面白くなかった」からではないでしょうか。ここを打破しようと、私は教室で真っ赤な革ジャンを着てマグマを語り、横書きの学術論文から縦書きのサイエンス入門書へと発信メディアを変えました。
通例、大学の理系科目では数式が並ぶ横書きの教科書を使いますが、それでは初学者の興味をつなぐことは難しいからです。結果は上々で、閑古鳥が鳴いていた講義は立ち見が出るまでになりました。そして自称「科学の伝道師」が誕生。京大で教えるようになってから24年間、「ヘンな教授」で押し通してきたのです。
とはいえ、私はなにも使命感に燃えているだけの地学者ではありません。そもそも私が地学に惹かれたのは、25歳の駆け出し研究者のころ、地球の美しさに心底、感動したからです。広々とした九州の火山で、風を感じ、土の匂いを嗅ぎ、大地を直接肌で受けとめながら山をひたすら歩きまわっていました。五感のすべてを使いながら地球の成り立ちに考えをめぐらすことには、なにものにも代えがたい心地よさがあったのです。「地学を一生続けていきたい！」と思った瞬間でもあります。
そうした地学という学問そのものの魅力も、本書でみなさんに伝えたいのです。
■新刊書籍のご案内
鎌田浩毅 著
定価1980円（本体1800円＋税）
西成活裕氏（東京大学教授）推薦！
「迫りくる巨大地震から身を守るには？ これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の1冊」
