東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

地球と火星や金星との違い
さて、地球という星について考えてみましょう。
今回も面白い質問をいただいています。
──火星やほかの惑星の内部も地球と同じような動きをしているのでしょうか?
内部の構造については、ほかの岩石惑星にも核、マントル、地殻があります。
ただ、大きな違いがあって、火星と金星という地球に近い岩石惑星の話をすると、どちらも、もう冷えてしまっていずれも内部が動かなくなってしまっているんです。
昔は火星にも金星にも水があったけれど、いまは地中深くにしか残っていない。
一方で地球は適度な大きさで、適度に水が保たれて、適度に循環しています。マントルが対流して、プレートが動く。熱が物質の間で受け渡しされて、いまの多様な自然環境がある。
でも火星や金星はそうではなくて、草木が生えていない砂漠のような環境で、火星の気温は昼間は最高20度ですが夜はマイナス80~140度まで下がります。
そして金星では強烈な温室効果により昼も夜も460度という高温になる。
なぜこのように過酷な環境なのか?
これには三つの理由があります。
一つは太陽からの距離です。金星は近すぎたし、火星は遠すぎた。それで、金星は熱くなりすぎ、火星は冷たくなりすぎた。
これは、太陽系の惑星のなかで、地球のみが「生命居住可能領域」に入っている理由にもなっているわけです。それから、やはりマントルの対流やプレート・テクトニクスの問題です。地球は熱が循環していますが、これがまさにちょうどいい塩梅なのです。
なぜこんなにうまくいっているのかはわかりませんが、とにかくそれで地球内部の物質は回っています。
40億年回っているんだから、次の40億年も回るわけですよ。火星とか金星では残念ながら止まっちゃっているのです。これが二つ目です。
もう一つは水と空気の存在です。固体地球と流体地球の話をしましたが、地球には海と大気がある。
水が水蒸気になって上で冷やされて雨になって海に戻るという循環をしているけれど、その過程で海と大気も熱を宇宙へ放出しているんです。
火星だったら凍っちゃうし、金星だったら水蒸気はぶっ飛んでいく。僕は流体地球の存在自体がすごいと思っています。
固体地球はまだわかる気がするんだけど、流体地球なんて吹けば飛ぶような水や大気が残っていて、具合よく循環しているわけじゃないですか。
地球は奇跡のような星
このような条件がそろっている惑星は地球以外にはないんです。
太陽系の惑星が八つあるけれど地球だけなんですよ。
だから地球は神さまから選ばれた星のように思えるし、実際、昔の人はまるで神さまのように大地を思っていた。すごく不思議です。
この不思議は価値がある不思議で、第一級の問題でしょう。
なぜ地球だけ、このような環境があって、生命が38億年にわたって死に絶えることなく続いているのか。
これを解くということが僕は地球科学の最上位のテーマだと思います。
参考資料:【京大名誉教授が教える】「10億年後に地球上の水はなくなる」という驚くべき事実
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』を抜粋、編集したものです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。