記者会見後、握手するトライアルホールディングス(HD)の永田洋幸取締役と西友の野村優執行役員3月5日、記者会見で握手するトライアルホールディングス(HD)の永田洋幸取締役(左)と西友の野村優執行役員 Photo:JIJI

九州地盤のディスカウントストア大手、トライアルホールディングスは4月1日付で、創業者の長男で取締役の永田洋幸氏が新社長に就任すると発表した。3月初旬に西友の巨額買収を発表した同社は10年ぶりの体制刷新でさらなる業容拡大を目指す。トップ人事の発表を受け、永田氏がダイヤモンド編集部のインタビューに応じた。42歳の若さでテクノロジーの活用などをけん引してきた永田氏は、今後トライアルをどのように成長させていくのか。同社の強みや、テクノロジーの活用策、次世代ストアと位置付けるサテライト型店舗の今後の展開など幅広く語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 下本菜実)

流通業が目指すべきは
アップルやグーグルのようなシステム

――オーケーやロピアのような競合は節約志向を背景に店舗網を拡大しています。ライバルにどう対抗しますか。

 オーケーやロピアはもちろん競合ではありますが、”ライバル”として意識しているというよりは、自分たちの分野で自分たちの考えていることをしっかりやっていきたい。

――では、競合とどう差別化しますか。

 トライアルの強みはテクノロジーにあると考えています。これを駆使して、小売業の「無駄・ムラ・無理」をなくしていきたいですね。

――具体的にはどのようなことですか。

 最もイメージしやすいのは物流でしょうか。スーパーに向かうトラックの荷台は満杯だけど、帰りは何も積んでいないというようなケースが散見されます。帰りのトラックの荷台を活用することで、より効率的な物流網を築けます。

 2022年に九州地盤の小売企業が参画して発足した「九州物流研究会」では、イオンやサンリブといった企業と一緒に物流の改善に取り組んでいます。僕たちが流通で目指したいのは、一言で言うと、米アップルや米グーグルがITの世界で築いているようなエコシステムです。

――それはどういう意味でしょうか。

 IT業界では個社の都合ではなく、「お客さんが便利な方が市場として有利である」という前提でサービスが提供されています。例えば、iPhoneで動画サイトのYouTubeを視聴できますよね。普通に考えればアップルはアップルミュージックというサービスを提供しているので、YouTubeや、音楽ストリーミングのSpotifyを使えないようにした方が直接的な売り上げにつながります。

 でも、それではお客さんは不自由を感じてしまう。YouTubeやSpotifyなど、さまざまなサービスを使える便利さがあるからこそ、消費者はスマートフォンから離れていかないのです。それをグーグルやアップルは分かっているから制限をしていない。このようなエコシステムを流通業でも再現したいのです。

 私たちはさまざまなサービスがある中で、お客さんにとって便利な方をお客さん自身が選ぶべきだと考えています。トライアルのアプリも楽天のネットスーパーもお客さんにとっては、アプリの一つでしかない。そこよりも、小売業全体でBtoBの部分の生産性を高めることが重要だと思っています。

――無駄やムラではなく「無理をなくす」というのは、具体的にはどのようなことでしょうか。

3月上旬、トライアルホールディングスは西友の全株式を取得し、完全子会社化すると発表した。約3800億円にも上る巨額買収で首都圏の店舗網を強化し、業績拡大を目指す。次ページでは、4月に社長に就任する永田氏に西友取得の先に見据えるネットスーパー事業やサテライト型店舗「トライアルGO」の展望を語ってもらった。トライアルが持つデータを生かした次世代の「スマートストア」とは。