ミュージカルの発表が“自分が変わるきっかけ”に

「バリューミュージカル研修」は、入社3年目の社員を対象にしている。なぜ、“入社3年目”というタイミングなのか?

田中 一般的に、入社3年目は離職率3割と言われています。入社時に持っていた仕事への情熱を忘れてしまったり、別の道を考えたりしがちな時期です。また、キャリアアップを目指す人はすごく伸びるけれど、逆に、現状からなかなか抜け出せないステージにいる人もいます。そうした社員に、ミュージカル作品『SUNDAY(サンデイ)』のテーマである「私が終わる、私が始まる」がフィットすると考えました。そうして、共同でバリューミュージカル研修を開発しました。自分を改めて見つめ直し、自分自身の在り方を“再設定”する機会を会社がつくり、“変わる”ことを後押ししてあげたい、と。

【ミュージカル研修(後編)】若手社員は、変化し続ける組織の中で、変化し続けられる人であってほしい

 入社3年目社員対象の「バリューミュージカル研修」は、過去2回(2年度)にわたって実施してきた。研修受講者たちは、それぞれの職場に戻ってから、仕事への向き合い方や行動に何らかの変化があるのだろうか?

田中 まだ、数値などのデータはないのですが、少なくとも、研修に参加した社員にとっては、ミュージカルの創作と発表という経験が、“自分が変わるきっかけ”になっているでしょう。

 研修では、ハードなこともあります。今回も、「中間発表」での講評を受けて、みんながとても落ち込んでいましたが、それでも、「納得するまでやりたい!」と言い、チーム一丸となって、ひとつの作品を創っていきました。そして、自分たちならではのミュージカルを完成させ、それを演じることで達成感を味わい、一人ひとりが何らかの気づきを得て、職場に帰っていったようです。

 諦めずに取り組む研修受講者たちの様子を見て、田中さんは、各チームの作品発表のときに「泣きそうになった」と告白する。

田中 作品創りのプロセスで、みんなが悩み、苦しみながら取り組んでいた姿をずっと見ていたので、毎年、本番では感極まってしまいます。みんなの本気さが伝わってくるし、私たち研修企画者だけでなく、音楽座さんも本気で彼ら彼女たちに向き合っていますから。

 研修テーマの「私が終わる、私が始まる」――「変わりたい」と思っても、人は簡単には変われません。それがわかったうえで、小さな一歩を踏み出すことが大切で、研修に参加した入社3年目の社員たちは、変わることの入り口に立てたのではないかと思います。

 バリューミュージカル研修では、「オブザーバー」という役割で、先輩社員が各チームに一人ずつ付き添っている。後輩たちに向き合うなかで、先輩社員たちにも「気づき」があるようだ。

田中 「オブザーバー」は、次期リーダー層の社員を、各現場の所属長と調整し、研修参加者の学びを深める役割として抜擢しています。メンター、あるいはエルダーのような存在といっていいかもしれません。先輩社員たちが入社3年目社員たちをフォローし、客観的な目線で指導していく――ミュージカル研修において、とても重要な役割を果たしています。