ロシアがウクライナへの大規模な侵攻を開始した2週間後、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はロシア政府にメッセージを発信するため、首都パリの地下20階へと向かった。マクロン氏は大統領官邸(エリゼ宮)の地下深くに設けられた核シェルターに入った。「ポーカー」と呼ばれる軍事演習を指揮するためだ。2022年3月の空が晴れ渡ったその夜を仏当局者は選んだ。数日前、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自国の核戦力を高度な警戒態勢に引き上げると発表し、西側に露骨な脅しをかけたのを受け、反応を示そうとした。仏当局者によると、指揮官らは遠隔地にある飛行場の上空をロシアのスパイ衛星が通過するタイミングを待ち、ロシア政府が監視するのを確信しながら演習を開始した。主力戦闘機「ラファール」がダミーの兵器を載せて離陸し、不特定国を攻撃するシミュレーションを行った。戦略専門家が「核のシグナリング」と呼ぶ、危険なパントマイムの一環だった。