Appleの新社屋にHIROSHIMAを納品したい、どうしても。彼がそう思ったのは、Apple Park構想が全世界のメディアで報じられたその日だった。
Apple Parkの建設が発表されたのは、2013年6月。新社屋はカリフォルニア州クパチーノ市に建つ予定で、完成すればシリコンバレーの象徴となるはずだ。神田は、Appleで働く人々がHIROSHIMAに座る光景を想像し、現実にしてやるぞ、と心に決めた。
「〈Appleが選んだHIROSHIMA〉という標章は、それだけで誰の心も射抜くはずですから」
神田は、その日のために情報を集め、営業を進めていく。
「Appleの新社屋設計がイギリスのフォスター・アンド・パートナーズ(Foster+Partners)だという話も耳にしていました」
フォスター・アンド・パートナーズは、建築家のノーマン・フォスターが1967年に開設した個人オフィスだ。フォスターは1985年に完成した、外側の鋼鉄フレームをむき出しにした『香港上海銀行香港本店ビル』で一躍注目を集めた、セオリーにとらわれず、新時代の建造物をつくりだしてきた。
その後、フォスター・アンド・パートナーズは世界各地で、空港、駅、スタジアムなどを造っている。各国のAppleストアもその仕事のひとつで、Appleとは深い関係を築いてきた。
神田はすぐにフォスター・アンド・パートナーズがあるロンドンへ飛んだ。
「実は、フォスター・アンド・パートナーズのメンバーはミラノサローネでHIROSHIMAを知って、とても高く評価してくださっていたんです。その方々に会ってApple Parkへの提案をしたいと思い、訪問を打診したら、『ぜひ会いましょう』と快く招いてくれました」
神田の営業力と鮮やかなフットワークが、AppleへHIROSHIMAの情報をもたらした。
まずは採用試験として
数百脚の椅子を出荷
Apple Parkが着工された頃、神田はアーキテクチュラの担当者から電話を受けていた。
「AppleがHIROSHIMAに興味を持っている」と聞いてから、およそ1ヵ月後の2014年2月のことである。
「Appleの新社屋のためにHIROSHIMAアームチェアを数百脚、納入してほしいんだ。それも1ヵ月で」
「わかりました、すぐに手配します」