「指示」と「ハラスメント」の境界線が曖昧

もう一つの大きな問題は、適切な指示・指導とハラスメントの境界線が曖昧なことです。

締切を守るよう強く言ったらパワハラと言われた」「ミスを指摘したら人格否定だと言われた」「頑張れと励ましたらプレッシャーをかけるなと言われた

こういった声は珍しくありません。結果的に、管理職が必要な指導すらできなくなる「指導萎縮」現象も起きています。

このような状況が生まれる原因は、「何をどう伝えればいいのか」が明確になっていないことです。つまり、ハラスメントにならない指導の仕方が言語化されていないのです。

根本的な原因:言語化されていないから

ハラスメント問題の根本にあるのは、コミュニケーションの「言語化不足」です。以下の3つの要素が明確になっていないことが、ハラスメントを減らせない大きな要因となっています。

1. やるべきこと(指示)が明確になっていない

多くのハラスメントは、メンバーが「何をすべきか」を理解していないところに、リーダーが苛立ちを覚えることから始まります。

例えば、「いい感じの資料を作って」を指示を出したのにメンバーが「いい感じ」にやってこなかった。リーダーは「自分は明確に指示をしたのに相手がやらなかった」とストレスを覚え、「まじめに考えろ! これじゃダメだろ!」と強い口調になってしまう。こうしたパターンは非常に多いです。

何が問題かと言えば、メンバーが「いい感じ」に資料を作らないことではなく、リーダーが「いい感じ」を言語化していないことですね。指示が明確であれば、メンバーは期待に応えやすくなり、リーダーもイライラして感情的になる場面が減ります。

2. フィードバックが明確になっていない

ダメなリーダーは「ダメ出し」をします。一方で、できるリーダーは「何をすればいいのか」を伝えます。

「ダメ出し」は文字通り、「ダメ」なところを指摘することですね。ダメなポイントを指摘することすらできていないリーダーもいますが、NGポイントを示されても相手は動けないことがあります。

大事なのは、「何をすればいいか(何を変えればいいか)」です。

「この資料の○○という部分は△△という理由で伝わりにくいと感じる。□□のように修正するとより分かりやすくなると思う」

とすれば、メンバーは修正できます。

しかし、リーダー自身が何を修正したらいいのかわからないこともあります。資料にグラフが入っていない、根拠となる数字が入っていない、など簡単に指摘できることであればいいですが、「アイディアが平凡」「資料がわかりにくい」など感覚的なポイントは、何をすればいいのかなかなか指摘ができません。

そんな時には、メンバーがその感覚を身につけられるようなトレーニングを課しましょう。「アイディアに斬新性が足りないから、これから毎日、女性誌の特集ページに書いてあるキャッチコピーを転記してみて」「登録者100万人以上のYoutuberが撮っている動画を、1日1本見て」など、何をしたらリーダーが期待している感覚を身につけられるかをトレーニングとして提示してください。

リーダーが期待している感覚やセンスは一朝一夕に身につけられるものではありません。徐々に育てていきましょう。そしてもし、リーダー自身が、何のトレーニングを課したらいいかわからないのであれば、メンバーと一緒に「トレーニングとして何をしていけばいいか」を考えていきましょう。

3. 「べき」と「だって」のギャップが理解されていない

指示や修正がハラスメントと受け取られてしまうのは、リーダーが持つ「べき」とメンバーが持つ「だって」にギャップがあるからです。

リーダー:「メンバーは報告をきちんとするべき」
メンバー:「だって、何をどこまで報告すればいいのか分からないんだもん」
リーダー:「締切は守るべき」
メンバー:「そんなこと言われても……。だって、他の優先業務が入ってきちゃったんだから(仕方ないでしょ)」

このようなギャップが理解されず、お互いの前提が共有されないまま、リーダーが「べき」を押し付けると、それがハラスメントとして受け止められることがあります。
リーダーが持っている「べき」は、仕事として当然の内容かもしれません。客観的に見たらその意見「正しい」でしょう。しかし、正しいからと言って相手が納得するわけではありません。大事なのは、相手がどんな事情(だって)を持っているかを考えることです。

言語化されていないから、ハラスメントはなくならない

ハラスメント問題が解決しない最大の理由は、「何がハラスメントか」という認識の違いと、「何をすればいいのか」が明確になっていないことです。

「ハラスメントをやめよう」と宣言するだけでは、何も変わりません。必要なのは、具体的な行動に変えた言語化です。

メンバーが何をすればいいのかを明確に伝えなければいけません。もしリーダー自身も迷っているのなら、メンバーと一緒に考えていきましょう。

言語化できれば、多くの問題は解決します。ハラスメント問題も例外ではありません。