「物価と賃金の好循環」は
経済を破壊するプロセス
政府は、コストプッシュ型の物価・賃金の上昇が生じるよう、企業に指導している。中小企業庁は、取引先への転嫁が進んでいるかどうかを調べる「下請けGメン」を増員した。公正取引委員会も、優越的地位の乱用の恐れがある企業を調査する専任の部隊を設けた。
だから、賃金が上がれば消費者物価が上がる。ところが、そうなると実質賃金が下がってしまうので、さらに賃金を引き上げなければならないことになる。

これは、経済活動の拡大を伴わないスパイラル的なインフレーションを引き起こす。つまり、スタグフレーション(編集部注/景気が後退していくなかでインフレが同時進行する現象)がもたらされる。
「賃金の上昇を販売価格に転嫁せよ」とは、「消費者の負担において賃金を上昇させよ」ということであり、極めておかしな話だ。なぜこのようなことが望ましいとして政府がそれを進めようとするのか、私にはまったく理解できない。
無理矢理に名目賃金を引き上げ、それを価格に転嫁させる。そうすれば実質賃金が下落するから、名目賃金をさらに引き上げなければならなくなる。これが「物価と賃金の好循環」だと言う。
しかし繰り返すが、これはコストプッシュ・インフレーションのスパイラルに他ならない。それは、人々を豊かにするのではなく、経済を破壊するプロセスだ。