「私は無能だ」と悩む人に精神科医が「大いに悩みなさい」とアドバイスするワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

“自分をよく見せたい”と思うのは自然な感情だ。しかし、他人の目や社会からの評価ばかりを気にしていると、心が疲れてしまう。他人と比較して一喜一憂するのではなく、ありのままの自分を好きになるにはどうすればよいのか。「心の名医」と呼ばれた、精神科医・斎藤茂太氏の言葉を紹介しよう。※本稿は、斎藤茂太『心が晴れる言葉』(あさ出版)の一部を抜粋・編集したものです。

自分のしたいことを
納得できるまでやってみよう

他人の評価は、
あなたを取り巻く状況を
変えるかもしれないが、
あなた自身を変えることはない。
したいことを納得できるまで
やってみよう。

 ゆとりを持ってゆっくり生きるのは簡単ではない。なぜなら他人の目が気になるからだ。

 しばしば、ゆとりは怠けていることと同一視される。上司の前、部下の前では「仕事のできる人」でいたい。家族や恋人からは「頼もしい」「素敵」と思われたい。だから、のんびりなんてしていられないのである。

 自分をよく見せたいと思うのは自然の感情だ。しかし、それにも程度がある。背伸びをして見栄を張る。虚勢を張る。知ったかぶりをする。悪意はなくとも、つい格好をつけてうそを言ったり、物事をごまかしたりするようでは、いずれぼろが出る。

 一見自信にあふれて見えても、その内では神経をすり減らしていく。人は他人のことばかり気にしていると、自分を見失ってしまう。自分のすべきこと、したいことがわからなくなってしまう。

 他人からよく思われることよりも、自分がやりたいことを見つけて、自分らしく生きていくことのほうがずっと大切なのではないだろうか。

 他人の評価は、あなたを取り巻く状況を変えるかもしれないが、あなた自身を変えることはない。

 他人のことなど気にせず、自分のやるべきこと、自分のしたいことを納得できるまでやってみよう。好きな仕事や自信はそうした中から手に入れることができるのだ。

 不思議なことに、自分の好きなことをやって自信が出てくると、他人の評価も他人のことも気にならなくなる。自分の人生に責任を持とうという気持ちにもなれる。

 自分は自分と居直ってみてはいかがだろうか。そのうち他人の評価もついてくるだろう。あまり人の目を気にせずに「そのうち評価されるさ」と思って待っているくらいでいい。

劣等感を抱くのは
向上心がある証拠

満足するところに、進歩などない。
「私は無能だ」と悩んでいる人には
可能性がある。

 テレビを見ていたときのこと。中学校を卒業して料理店で修業をする料理人志望の子どもたちの様子と、その後を追ったドキュメンタリーが放送されていた。

 当初、20人近くいた子どもたちのうち、厳しい修業に耐えて2年後に店に残っていたのは、当初何をやらせてもダメな男の子と女の子だった。