
人生には、苦しいことが何度もある。行き詰まってしまったら、どうすればよいか誰もが悩む。そんな“つらさ”に立ち向かっていくとき、心を支えてくれる言葉たちを紹介しよう。「心の名医」と呼ばれた、精神科医・斎藤茂太氏の気持ちがすっと晴れていくメッセージをお届けする。※本稿は、斎藤茂太『心が晴れる言葉』(あさ出版)の一部を抜粋・編集したものです。
行き詰まったら大いに悩んで
新しい自分をつくっていこう
自分を否定する必要は
まったくないのだ。
行き詰まってしまったあなたは、何をするべきか。
答えは、いたって簡単である。これまでのやり方、もしくは自分自身を変えればいいのである。
しかし、これは言うは易し。実行するのはものすごく大変なことである。
まず、自分が信じて生きてきた、その生き方を否定しなければならない。これはとてもつらいことだ。アイデンティティの危機である。たとえ他人が、「こうしてみたらどうだ」と助言してくれても、それはとうていやすやすと受け入れられない方法であることが多いだろう。例えば、
「あなたがあの人とうまくいかないのは、愛想がないように見えるからよ。もう少し、愛嬌を持ってふるまってみたらどう?」
と言われたとしよう。けれどあなたは、調子よくお世辞を言う人間が何より嫌いで、それが自分の誠実さだと信念を持って生きてきた。それを「なるほど、そうか」と次の日から、調子のいい人間に変わることができるだろうか。
私は、できるとは思わない。
少なくとも私は、そんなに調子よく自分のやりかたをころっと変えられる人は信用できない。
自分のやり方を守って生きており、それを変えなければならないときには、とことん苦しむ人のほうが、人間として信頼できると思う。また、そういう人間のほうが、変わるときには、ほんとうにしっかりと変われるものなのである。
つまり、あなたが悩んでいるということは、人間として誠実に生きている証なのだ。自分の信条をしっかり持ち、一貫して生きている人間なのだということを証明しているのである。だから、自信を持っていただきたい。
これまでの自己を否定する必要はまったくない。これまでの自己を認めた上で、少しずつ変わっていけばよいのである。少しずつ変わっていく過程では苦しみ、たくさん悩むだろう。それは言ってみれば産みの苦しみだ。痛みのない出産はない。悩み、苦しんだ先には、きっと新しいあなたがいるはずだ。
行き詰まったら大いに悩んでほしい。そして新しい自分をつくっていこうではないか。