金融理論的にはたとえ高齢者でも預金から投資へと資産をシフトするのが、リスクを加味したとしても理にかなっていると考えられています。実際そう考える人が多いアメリカでは、個人金融資産の約53%を株と投資信託が占め、現預金は12%程度にすぎません。
じゃあ、なぜこのような差が生まれたのかというと、ここは日本の金融機関が猛省すべきところですが、高齢者は過去、金融機関に食い物にされた知人をたくさん知っているのです。証券会社の言うままに株を売買して財産を減らした友人や、銀行員が勧める仕組み商品で資産を減らした知人がたくさんいて、金融商品はリスクだと実体験しているのです。
実際、業界は浄化されつつあって、若者が新NISAで投資を始めるにはとてもよいタイミングです。長期のインデックス投資なら投資リスクは低くおさえられるわけで、だから若者は預金から投資へと財産をシフトします。一方で高齢者はもう資産を減らしたくない。自衛本能から銀行預金を堅持する。この状況で「別にいいんじゃないの?」と思えるのです。
では、なぜ政府がいまさら高齢者向けのプラチナNISA制度を検討するのでしょう。理由は投資が増えないと日本経済は成長できないからです。
旧来の考え方では個人が銀行に預けたお金は、貸出金となって企業の成長投資に寄与します。昭和の高度成長はこのメカニズムでもたらされました。ところがバブル崩壊後の日本経済では銀行に対する企業の借入ニーズが減り、銀行は余った預金で国債を買うしか運用先がなくなっています。
では日本経済の投資を誰が支えてきたのかというとアベノミクス以降は日銀でした。日銀が日本国債とETFを購入することで、国に対しても企業に対しても投資資金が供給されたのです。その日銀が今、これ以上の資金供給が難しいところに来ています。
この状況を打開するために都合がいいのは、個人が銀行に預けている預金が投資に向かうことです。ただこのアイデアは現実には機能していません。