さらに、打撃力=速度の2乗×火力というナポレオンの箴言(しんげん)を援用するなら、速度が3倍なので打撃力は9倍です。軍隊の打撃力の計算を単機の戦闘力の算出に直接あてはめるのは無理があるかもしれませんが、速度が上昇することで打撃力が大幅に強化されることは想像に難(かた)くありません。
ルウム戦役で艦船5隻を単独撃沈というのも、むべなるかなです。つまり「(3倍のスピードで)激烈な打撃力をもたらす」というのが、戦闘での最終的な「ベネフィット」だと考えられます。
そして、彼が搭乗した赤いザクがどのような存在であるか、両軍に周知されていきました。“赤い彗星”が同じ戦列にいることは、味方に勝利の確信と多大な士気向上をもたらしたことでしょう。
同時に、敵は赤い影におびえ戦慄(せんりつ)し、士気の阻喪(そそう)を招いたかもしれません。「赤い彗星」は両軍にとって、「(3倍のスピードで)激烈な打撃力を持つ」という意味を有するブランドだったと理解できます。
いずれ「赤いモビルスーツ」ブランドはMSM‐07Sシャア専用ズゴックや、MS‐14Sシャア専用ゲルググへとアップグレードされていきます。「3倍スピード」という側面は継承されませんが、「激烈な打撃力を持つ」というベネフィットは一貫して維持されました。
ブランドが「機能」ではなく「ベネフィット」に立脚して「意味」の一貫性を保つ例といえそうです。
ガンダム世界の中で「赤い彗星」ブランドは購入対象ではありませんから、ビジネス上のブランドと同じではありませんが、ブランドが持つ「意味」の重要性を理解するのに参考になると思います。
さて、モビルスーツという製品が提供する「機能」から、そのユーザーであるシャアが得たものが「ベネフィット」という構造が理解いただけましたでしょうか?
自社の商品をブランドとして確立するためには、製品のデザインや機能を通して、消費者や顧客にどのようないいことが起きるのか、つまりベネフィットは何か、考えてみることをおすすめします。そして、名前だけではなくベネフィットを認知してもらえることを意識すると、実効性の高いマーケティングプランになると思います。