2010年の上海万博「問題はあって当然。日々改善する」
中国・上海出身である筆者は、仕事で2010年の上海万博に関わった経験がある。中国にとっては初の万博であり、試運転期間中や開催直後も大混乱が起き、トラブルが絶えなかった。何より、建設未完成の海外パビリオンが5割もあったのだ。
他にも、熱中症や迷子が急増したり、トイレの数がまったく足りなかったり、マナーの悪さなど、多くの課題が噴出した。当時は今のようにインターネットが発達していなかったため、上海市は万博専用のテレビチャンネルを設けて、市長をはじめとする行政関係者や万博運営事務局が毎日テレビで市民に呼びかけ、「問題はあって当然、だからこそ日々改善する」というメッセージを発信し続けた。
結果、延べ100万人の全国から駆けつけてきた無償のボランティアの支援や、国民全体の熱意と協力によって大きな成功を収め、「唯一無二の万博」として博覧会国際事務局に評価された。15年たった今でも「半年間、街全体がお祭りだった。万博が閉幕した時には本当に寂しかった」などと思い出を語る上海市民は多く、子どもたちにとっては世界と触れ合う貴重な教育の場でもあった。

疑問に思う日本の対応
それに比べ、今回の万博に対する、SNS上の日本人の反応や、メディアの対応はどうだろうか。
大阪市内の小中学校の1割が無料招待を辞退し、修学旅行の目的地を万博からユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に変更したという報道まであった。メタンガスや事故の懸念が理由とされるが、その裏にあるのは「過剰なリスク回避」と「世論への忖度」なのではないだろうか。
外国人の目から見ると、“今しか体験できない期間限定の自国の一大イベント”よりも、いつでも行ける“外国資本の遊園地”をわざわざ選ぶセンスに驚かざるを得ない。
かつて上海万博事務局に勤めていた知人は次のように語っていた。
「我々はとにかく、子どもに来てもらうため一生懸命だった。こんなに身近に各国の文化や歴史に触れることができるのは、万博しかないと考えたからだ。考えてみてください、数十メートルごとに一つの国がある。教育という目的で、子どものうちに国際的な体験をしてもらうことが大事です。その子の将来に、異文化への理解や寛容など、さまざまな影響が出てきます。未来を託す子どもには絶好の教育の場です。そのため、地元上海だけではなく、出稼ぎ労働者や農村部貧困地域の小・中学生をたくさん招待しました」